自国企業の対中投資を抑制するための政策案を独経済省が検討している。民主主義国家と独裁国家の地政学的な対立が強まるなかで企業が中国依存を強めていることに危機感を持っているためだ。政府内の意見は一本化されていないものの、国外投資保険の適用制限と対中投資管理制度の導入を議論しているという。6人を超える政府高官から得た情報として経済紙『ハンデルスブラット(HB)』が26日付で報じた。
ドイツ政府はロシアのウクライナ進攻を受け、対中政策の見直しを進めている。中国が台湾に軍事侵攻する可能性を排除できないためだ。そうした事態が起きた場合、政府は対中制裁を科さざるを得なくなる。中国は最大の貿易相手国であるうえ、同国で事業展開する独企業も多いことから、ドイツが被る経済的な影響は対露制裁の比ではない。国外投資保険を活用する独企業が中国事業で巨額の減損処理を行えば、そのツケは最終的に納税者が負担することになる。
オーラフ・ショルツ首相(社会民主党)は夏季記者会見で、「すべての卵を1つのかごに入れないということは、経営学の第3学期に学ぶ基本的な教えだが、時おり忘れてしまう人がいる」と述べ、投資を多様化し中国依存の脱却を進めるよう企業に促した。
だが、独企業の対中投資は依然として活発だ。財界系シンクタンクのIWドイツ経済研究所によると、今年上半期の対中投資額は約100億ユーロに達し、ダントツで過去最高となった。
ドイツ政府はリスクの大きい輸出や国外プロジェクトを行う自国企業に対し、民間企業ユーラーヘルメスを通して貿易保険(ヘルメス貿易保険)を提供している。HB紙によると、経済省は対中貿易で同保険の適用に制限を加えることを検討し始めた。保険総額に上限を設ける構想が浮上しているという。
独政府は欧州連合(EU)加盟国などを除く国外の企業によるドイツ企業への出資計画を審査し、問題があると判断した場合は拒否権を発動できる。経済省は独企業の国外投資にも審査制度を導入し、拒否権を行使できるようにすることを検討している。米国で議論されている対中投資の事前審査制度を念頭に置いたものだ。
政府内では緑の党が大臣ポストを掌握する経済省と外務省で対中強硬論が強い。一方、首相官邸と、中道右派の自由民主党(FDP)が掌握する財務省は慎重で、ヘルメス貿易保険の適用制限と対外投資事前審査制度の導入は中国を刺激しリスクが大きいとみている。経済界も同様の立場で、ある財界人は匿名で同紙に、「経済省の計画については聞いている。現在は時期的にまったく有意義でない」との見解を示した。
リショアリングでGDP10%縮小
Ifo経済研究所が今月上旬に発表したレポートによると、中国とEUの通商関係が悪化した場合、ドイツ経済は大きな打撃を受ける。EUが中国製品への関税を一方的に引き上げた場合、独の国内総生産(GDP)は長期的にみて実質0.52%縮小する。これは英国のEU離脱(ブレグジット)で受ける影響(同0.14%)の約4倍に相当する規模だ。
EUの関税引き上げに対し中国が報復措置を取り通商戦争に発展した場合は、独GDPの縮小幅が0.81%に膨らむ。ドイツは中国依存度が高いことから、他のEU加盟国(同0.53%)よりしわ寄せが大きい。
EUが同じ西側諸国の英国、米国、カナダ、日本、オーストラリアと協調して中国製品への輸入関税を引き上げ、中国が報復措置を取るというシナリオ(西側と中国の通商戦争)では独のGDP縮小率が0.76%となる。通商戦争がEU~中国間にとどまる場合に比べドイツが受ける影響はやや緩和される。EUが米国と自由貿易協定を結べば、独GDPの減少幅は0.18%にとどまる。
ドイツ経済が最も大きな打撃を受けるのは自国企業が中国から生産撤退した場合(脱グローバル化のシナリオ)だ。生産をすべて自国に移管した場合(リショアリング)はGDPの減少率が9.68%に達する。EU加盟国、トルコ、北アフリカといった近隣諸国に移管した場合(ニアショアリング)も同4.17%と大きい。
Ifoは中国との関係を全面的に断ち切ることは好ましくないと指摘。サプライチェーンと販売市場の両面で多様化を進め、中国依存を軽減するよう提言している。