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2022/9/21

総合 - ドイツ経済ニュース

「残存原発の予備電源化では不十分」、政府の経済諮問委が経済相に再考促す

この記事の要約

ドイツ政府の経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)は14日付『フランクフルター・アルゲマイネ』紙への寄稿文で、エネルギー危機対策の見直しを提言した。ロシア産天然ガスの欧州向け供給が削減・停止され、冬季のエネルギー不足が懸念 […]

ドイツ政府の経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)は14日付『フランクフルター・アルゲマイネ』紙への寄稿文で、エネルギー危機対策の見直しを提言した。ロシア産天然ガスの欧州向け供給が削減・停止され、冬季のエネルギー不足が懸念されることを指摘。残存する原子力発電所の一部を予備電源に組み込むことで電力不足を回避するというロベルト・ハーベック経済・気候相(緑の党)が先ごろ打ち出した方針は不十分で不適切だとして、現在使用している全原発の稼働を延長する政策に改めるよう促した。

ドイツは今年末までの原発全廃を法律で定めている。だが、ウクライナに侵攻し制裁を科されているロシアが報復として欧州向けの天然ガス供給を削減したり停止していることから、ロシア産ガスへの依存度の高いドイツでは冬季にエネルギーが不足する可能性がある。

ハーベック氏はこれを踏まえ、残存する原発3基のうち2基を予備電源に組み込み、需給がひっ迫した場合に投入できるようにする意向を先ごろ表明した。予備電源として活用する期間は来年4月中旬までと短い。

緑の党は反原発を原点とする政党であることから、ハーベック氏は原発をできれば今年末で廃止したい考えだったが、エネルギー不足と価格高騰を受け、稼働延長要求が経済界や野党だけでなく、与党内でも強まっていることから、来年1月から4カ月半、予備電源扱いとする妥協方針を打ち出した。うまく行けば来年1月以降に2原発を稼働させずに済むという計算が見え隠れする。

これに対し5賢人委は、◇エネルギー危機は少なくとも2024年夏まで続く◇4カ月半の予備電源化では原発運営会社のコストがかさむだけで経済的なメリットがない――と指摘。エネルギー危機が収束するまで3原発の稼働を継続するよう提言した。原発をめぐって「イデオロギーの塹壕戦」を展開するのではなく、プラグマティックな対応を取ることが重要だとしている。

Ifo経済研究所が14日発表したところによると、3原発の稼働を継続すると、電力価格を来年4%引き下げることができる。国内電力の4%を賄えるという。

石炭発電にも消極的

5賢人委員会は予備電源となっている石炭発電所を再稼働させることも促した。原発の稼働延長と同様に、電力不足と価格高騰の緩和効果が期待できるとしている。

これに絡んでは代替発電所待機法(EKBG)が7月に施行された。ドイツは38年までの石炭発電廃止を定めた法律に基づき、石炭発電所を順次、予備電源化しているが、EKBGにより現役発電所の予備電源化の先送りと、予備電源扱いの発電所の再稼働が特例として可能になった。

特例ルールの適用期間は24年3月末までと同法に明記されている。だが、経済・環境省は同法の施行細則を定めた省令でこれを今年4月末までに短縮した。これでは採算を取るのが難しいことから、これまでに再稼働した石炭発電所は2基にとどまる。発電事業者、石炭輸入・販売事業者の業界団体は13日に記者会見を開き、現状では政府が求める発電能力の拡大に応じることができないと苦情を表明した。

エネルギー大手シュテアグの役員で石炭輸入協会の副会長を務めるシュテファン・リーツラー氏は、同社は予備発電所2基の再稼働と、予備発電化が予定されている発電所2基の稼働延長に向け準備を進めているが、省令が課す条件では最終的なゴーサインを出すのが難しいと指摘。脅すつもりはないと前置きしたうえで、再稼働と稼働延長を行わないという選択もあり得ることを明らかにした。

エネルギー危機の最大の原因となっている天然ガス不足は今年から来年にかけての冬よりも来年から再来年にかけての冬の方が深刻と予想されている。今年は備蓄の積み増しに夏までロシア産を投入できたが、来年はロシア産を当てにできないためだ。5賢人委のヴェロニカ・グリム委員は電力価格の高騰に歯止めをかけるためにも石炭発電特例ルールの適用期間を24年まで延長すべきだとの見解を表明した。

ハーベック氏が原発と石炭発電の活用に消極的なのは、ニーダーザクセン州で10月9日に州議会選挙が行われるためと目されている。緑の党の支持者は原発と石炭発電に批判的であることから、両電源の積極活用方針は打ち出しにくいもようだ。