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2023/5/10

総合 - ドイツ経済ニュース

エネ集約型産業向けに低価格電力、経済省原案に経済界は賛否両論

この記事の要約

ドイツ連邦経済・気候省は5日、国内で事業を展開するエネルギー集約型企業が低価格で電力供給を受けられるようにするための政策原案を公表した。国際的にみて割高な同国の電力価格はロシアのウクライナ侵攻で一段と上昇し、化学、金属メ […]

ドイツ連邦経済・気候省は5日、国内で事業を展開するエネルギー集約型企業が低価格で電力供給を受けられるようにするための政策原案を公表した。国際的にみて割高な同国の電力価格はロシアのウクライナ侵攻で一段と上昇し、化学、金属メーカーなどの競争力が著しくそがれていることから、公的資金で電力価格を引き下げ、産業立地競争力を維持する狙いだ。今後、経済界や州などから幅広く意見を聴取し、政策を策定する考え。ただ、同政策方針に対しては経済界のほか、政府・与党内からも批判が出ており、難航が予想される。

電力の卸売価格は昨年8月末、1メガワット時(MWh)当たり586ユーロとなり、価格高騰が始まる前(2021年夏まで)の10倍に達した。現在は116ユーロまで下がっているものの、高騰前の水準の2倍に上っている。30年までは高止まりするというのが専門家の見方だ。現状が続くと、エネ集約型産業の大規模な国外流出が起こり、産業空洞化につながる懸念がある。

経済省は今回公表したワーキングペーパーで、「エネルギー集約型産業は独製造業、ひいては我が国の豊かさの基盤である。これらのメーカー~例えば化学、鉄鋼、金属、ガラス、製紙産業分野における~の多くは独製造業が国際的に成功を収めている製品向けに素材を供給している」と指摘。巨額の国家助成を受けた中国や米国など他国の企業との競争や、脱炭素という巨大な課題に直面するドイツの産業立地競争力を保つためには、エネ集約型産業を当面、支援する必要があるとの認識を示した。社会的な一体性の維持、地政学的な自立、レジリエンスの問題でもあると強調している。

同省はこうした認識に基づき、「橋渡し電力価格(ブリュッケンシュトロームプライス)」という名の産業向け低価格電力を30年まで時限導入する政策案を作成した。電力取引所価格が1キロワット時(KWh)当たり6セント(年平均)を超えた場合、超過分を国が負担する。各メーカーが使用する総量の80%に同価格が適用される。費用は計250億~300億ユーロに上ると見込んでいる。

支援資金は国の経済安定化基金(WSF)からねん出する。WSFは昨年、エネルギー価格の高騰に直面する世帯と企業を支援するための費用を最大2,000億ユーロ、市場で調達する権限を付与された。エネルギー価格が当時に比べ大幅に下落し資金的にゆとりがあることから、経済省は橋渡し電力価格向けに一部を転用する意向だ。

30年からは再生エネをPPAで低価格供給

30年以降については、エネ集約型企業が電力購入契約(PPA)を通して再生可能エネルギー電力を発電原価に近い低価格で調達できるようにする。政府はドイツの電源構成に占める再生エネの割合を同年までに80%以上に引き上げる計画のため、エネ集約型企業に十分な量を供給できるようになると見込んでいる。30年までの低価格電力を「橋渡し」と表現するのはこの計画を踏まえたものだ。

エネ集約型産業は経済省の政策方針を歓迎している。化学工業会(VCI)のヴォルフガング・グローセエントループ専務理事は、「これは我々の国際競争力にとって明確なゲームチェンジャーになる」と断言した。企業が煩雑な手続きなしで利用できるようにすることを求めている。独労働組合連合会(DGB)も「ニーズの80%に6セントという水準は適切でよく考えられたものだ」(ヤスミン・ファヒミ委員長)と評価している。

一方、低電力料金の適用対象とならない企業は批判的だ。同族経営企業の経済団体ファミリエンウンターネーマーは、中小企業の多くも厳しい国際競争にさらされている現実が見落とされていると指摘。支援対象をエネ集約型企業に限定するのは大企業優遇だとして、見直しを要求した。国内の全企業が加入する独商工会議所連合会(DIHK)も支援対象の範囲が狭すぎると問題視している。

与党では国の市場介入に否定的な自由民主党(FDP)が反対を表明している。クリスティアン・デュル院内総務は公正な競争をゆがめるものだと批判した。同党の党首であるクリスティアン・リントナー財務相は、WSFからの資金転用は違憲だと批判。産業電力価格の引き下げは「理性的なエネルギー政策」を通して行うべきだとしている。