欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2017/1/23

EU情報

英首相がEU完全離脱を表明、単一市場から撤退へ

この記事の要約

英国のメイ首相は17日、ロンドン市内で行った演説でEU離脱に関する政府の基本方針を示し、EU単一市場からの撤退を含めて完全離脱する意向を表明した。単一市場残留より移民制限を優先する「ハードブレグジット(強硬離脱)」に舵を […]

英国のメイ首相は17日、ロンドン市内で行った演説でEU離脱に関する政府の基本方針を示し、EU単一市場からの撤退を含めて完全離脱する意向を表明した。単一市場残留より移民制限を優先する「ハードブレグジット(強硬離脱)」に舵を切ることを初めて明言した形となる。英政府はEUとの関係をいったん白紙化し、国家主権を回復した上で、EUと包括的な自由貿易協定(FTA)を結び、単一市場に可能な限りアクセスできるようにすることを目指す方針だ。

英政府はEU離脱後も単一市場へのアクセスを維持したい考えだった。しかし、EU側は域内の人の自由な移動という原則を受け入れることが絶対的な条件という立場を崩さず、英がEUからの移民流入を制限すれば単一市場から締め出す方針を打ち出している。メイ首相にとっては、EU離脱の是非を問う国民投票で移民制限が最大の争点となったことから、この条件を飲むわけにはいかないものの、これまでハードブレグジットに踏み切るかどうかを明確に示していなかった。

メイ首相は各国の外交官らを前に行った演説で、「EU離脱は欧州からの移民を制限することを意味する」とした上で、「明確にしておきたい。私の方針では、単一市場に残ることができないということだ」と述べ、単一市場からの撤退を表明。代わりにEUと「包括的で野心的な自由貿易協定を結び、単一市場に最大限にアクセスできることを目指す」と述べた。

さらにメイ首相は、EUとの離脱交渉で移民制限実施のほか、EUの裁判所である欧州司法裁判所の管轄から外れることや、EU予算への拠出中止など主権回復を優先する意向を表明。離脱後に目指すFTAについても、単一市場にアクセスする代わりにEUのルールに従うことが求められるノルウェー、スイスなどと異なる独自の協定を目指すことを明らかにした。一方、「EU離脱は欧州から離脱することではない」と述べ、安全保障分野などで協力関係を構築していく考えを示した。

EUと英国の離脱交渉の期間は原則2年。英政府は3月末までにEU離脱を正式に通告し、離脱交渉を開始する方針を打ち出している。メイ首相はEU離脱が双方に及ぼす影響を緩和するため、交渉妥結後に一定の移行期間を設けることをEUに提案する意向を表明。また、EUとの合意について、英議会による承認を求めることも明らかにした。

英国はEUへの輸出が輸出全体の44%を占めている。単一市場から撤退すると、同国の企業はEUに製品を非関税で輸出することができなくなり、大きな打撃を受けるのは避けられない。政府はFTA締結により、その影響をできる限り抑えたい考えだが、交渉には数年を要する。また、EUが英国に有利となるような条件でのFTAに応じるかも不透明だ。メイ首相はEUが高い関税を設ける場合は、英国企業を守るため法人税を引き下げるなどして対抗する用意があることを明らかにした。

一方、英国のEU離脱に批判的なスコットランド自治政府のスタージョン首相は同日、メイ首相が単一市場撤退を表明したことに反発。英国からの独立の是非を問う住民投票の再実施に含みを残した。

ただ、金融市場では英政府が離脱の基本方針を明示したことで、不透明感が払しょくされたとして、同日に英ポンドは対ドルで急騰した。また、EUのトゥスク大統領(欧州理事会常任議長)は、英がハードブレグジットを表明したことを「悲しいプロセスだ」としながらも、「少なくとも、より現実的だ」と評した上で、英国を除くEU27カ国が結束して離脱交渉に臨む方針を示した。