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2017/3/29

総合 - ドイツ経済ニュース

下院選の“前哨戦”で保守与党が大勝、社民のシュルツ効果弱く

この記事の要約

西南ドイツのザールラント州で26日、州議会選挙が行われ、即日開票の結果、保守系与党のキリスト教民主同盟(CDU)が得票率を大きく伸ばして第一党の地位を堅持した。移民排斥政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は議席を獲得し […]

西南ドイツのザールラント州で26日、州議会選挙が行われ、即日開票の結果、保守系与党のキリスト教民主同盟(CDU)が得票率を大きく伸ばして第一党の地位を堅持した。移民排斥政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は議席を獲得したものの、得票率は低く、難民問題を追い風とした急速な党勢拡大にブレーキがかかった格好だ。マルティン・シュルツ連邦首相候補の効果で人気急上昇中の社会民主党(SPD)は得票率を伸ばすことができず第二党にとどまった。

主要政党の得票率をみると、CDUは40.7%で、前回を5.5ポイント上回った。SPDは1.0ポイント減の29.6%。左翼党も3.3ポイント減の12.9%へと落ち込んだ。同州議選に初参加のAfDは6.2%だった。前回選挙で7.4%を獲得し議会進出を果たした海賊党は0.7%へと激減し、議席獲得に必要な5%を大幅に下回った。環境政党・緑の党も5.0%から4.0%に低下し議席を喪失している。中道右派の自由民主党(FDP)は前回の1.2%から3.3%へと伸ばしたものの、2期連続で議席を獲得できなかった。

議席配分はCDUが24、SPDが17、左翼党が7、AfDが3。合計は51で、過半数ラインは26となっている。各党の政策方針を踏まえると、CDUとSPDによる大連立以外に次期政権の選択肢はなく、両党は2期連続で政権を樹立する見通しだ。

今年は9月に連邦議会(下院)選挙が予定されている。その前に同州を含む3州で州議会選挙が行われることから、これらの選挙はすべて連邦議会選挙の前哨戦として大きな注目を集めている。

焦点は(1)メルケル連邦首相が党首を務めるCDUは“シュルツ効果”で追い上げを図るSPDを振り切れるか(2)SPDや左翼党による左派政権は誕生するのか(3)AfDの躍進は続くのか――の3点だ。

SPDはシュルツ氏を次期連邦首相候補に選定した1月下旬まで、支持率が全国的に低迷しており、ザールラント州でも26%にとどまっていた(世論調査機関ヴァーレンの調べ)。同州議選直前の3月23日にはこれが32%へと上昇しCDU(同37%)の背中をとらえており、CDUには危機感があった。

だが、選挙の結果はCDUの大勝だった。背景にはCDUのトップ候補である同州のアンネグレート・カンプカレンバウアー首相の人気が極めて高いことがある。SPDにとってはこれがネックとなり、シュルツ効果を十分に発揮できなかった。

州民は左右の二大政党であるCDUとSPDの大連立政権に対しても高い評価を下していた。このためSPDと左翼党からなる左派政権の成立を支持する有権者は少なかった。選挙直前のアンケート調査では左派政権支持の有権者が33%にとどまったのに対し反対は61%に達していた。

ポピュリズムに市民の警戒感

AfDは2014年のザクセン州議会選挙で、初めて州議会に進出。その後はすべての州議会で議席を獲得している。特に15年秋の難民急増以降は、得票率が2ケタ台に上っており、16年3月のザクセン・アンハルト州議選では24.2%に達した。

今回のザールラント州議選で得票率が一ケタ台にとどまったのは、ドイツに流入する難民の数が大幅に減少しているうえ、滞在資格のない難民の本国送還に力を入れるなど政府が対策をとっているためだ。排外主義を煽るための材料が減り、失速状態にある。党内に極右思想の持ち主が少なくないことや、党の路線をめぐる権力闘争もマイナス材料となった。このほか、米国のトランプ政権誕生などを受けて、ポピュリズムに対する警戒感が有権者の間に広がったとの指摘が出ている。

今後は5月にシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州とノルトライン・ヴェストファーレン州で州議選が行われる。今回のザールラント州議選は“カンプカレンバウアー効果”などの特殊要因が選挙の大きな決め手となったことから、調査機関ヴァーレンは「連邦議会選挙を先取りするものとは言えない」としている。