欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2019/2/11

EU情報

英とEU、離脱問題の溝埋まらず

この記事の要約

英国のメイ首相は7日、ブリュッセルのEU本部で欧州委員会のユンケル委員長らと会談し、EUと合意した離脱案のうちアイルランドと北アイルランドの国境問題について協議した。法的拘束力がある修正を求めるメイ首相に対して、EU側は […]

英国のメイ首相は7日、ブリュッセルのEU本部で欧州委員会のユンケル委員長らと会談し、EUと合意した離脱案のうちアイルランドと北アイルランドの国境問題について協議した。法的拘束力がある修正を求めるメイ首相に対して、EU側は離脱案をめぐる再交渉には応じない姿勢を崩さず、成果がないまま会談が終了。今後も協議を続けることで合意するにとどまった。

EUと英国は、英国領の北アイルランドとEU加盟国アイルランドの間に物理的な国境を設けるのを避けることで合意しているものの、それをどのような仕組みで実現するかは決まっていない。昨年11月に合意した離脱案には、EUを離脱した直後に双方の関係が激変し、貿易などに大きな影響が及ぶのを避けるため2020年12月末まで設けられる「移行期間」中に最終的な解決策で合意できない場合に、期限付きで英国が関税同盟にとどまり、関税ゼロなど現在と同様の通商関係を維持するという「バックストップ(安全策)」措置が盛り込まれた。

しかし、英国内の離脱強硬派は、バックストップ措置が恒久化され、英国が事実上、関税同盟に残留し、EUのルールに縛られることになるとして反発。下院で1月15日に実施された採決では、歴史的な大差で離脱案が否決された。これを受けてメイ首相は、国境管理問題に関してEUから譲歩を引き出した上で、議会の承認を取り付けることを目指している。

メイ首相は今回の協議で、離脱案について再交渉し、バックストップが一時的な措置であることを法的に保証する修正案をまとめることを提案した。これに対してユンケル委員長は、EUと英国の将来の関係の大枠を定める「政治宣言」に英国側の要求に沿った文言を加える形で対応する案を提示したものの、離脱案の再交渉は拒否した。政治宣言には法的拘束力がなく、メイ首相の要求を突っぱねた格好だ。

双方は11日から実務者レベルの協議を行い、国境問題に関する打開策を探る。メイ首相とユンケル委員長も2月末までに再会談する予定だ。ただ、英国とEUの主張には大きな隔たりがあり、妥協点を見出すのは極めて難しい。メイ首相は13日までにEUとの協議を終え、14日に下院の採決に臨む方針だが、採決が延期されるのは確実な情勢。英国が離脱する3月29日が迫る中、「合意なき離脱」がさらに現実味を帯びてきた。

国境問題をめぐっては、最大野党・労働党のコービン党首がこのほど、英国が関税同盟に恒久的に残留する形でしか解決できないとして、これを政府が受け入れれば離脱案の支持に回ると言明した書簡をメイ首相に送った。EU内でも同案を支持する声が広がっている。しかし、保守党内の強硬離脱派の反発を招くのは必至だ。労働党内でもEU離脱の是非を問う国民投票の再実施を求める勢力があり、コービン案への対応が分かれる見込みで、事態打開のメドは立っていない。