欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2019/9/30

EU情報

英最高裁が議会閉鎖に「違法」判決、ジョンソン首相の窮地深まる

この記事の要約

英国では10月19日までに英議会が離脱協定案を承認し、円滑な形で離脱することが決まらなければ、10月31日となっている離脱期限を2020年1月31日まで延期することをEUに要請するよう政府に義務付ける法案が成立済み。

ジョンソン首相が延期を要請せず、10月31日のEU離脱を実現するためには、10月17、18日のEU首脳会議で離脱協定案について合意し、英議会の承認を得て、10月31日に秩序ある形で離脱するという手がある。

合意すれば国民投票を実施し、同案を受け入れてEUを離脱するか、離脱を撤回して残留するかを問うという内容で、離脱反対派の票を取り込んで政権を奪取する狙いがある。

英国の最高裁判所は24日、ジョンソン首相が議会を約1カ月間にわたって閉会することを決めたことを違法とする判決を下した。これを受けて議会は25日に再開となった。首相は自身のEU離脱をめぐる方針に反対する勢力の動きの封じ込めを狙った奇策が不発に終わり、一段と深い窮地に直面している。

ジョンソン首相はEUとの合意がなくても10月31日に離脱するという強硬な方針を掲げている。離脱協定案の見直しを拒否するEUに揺さぶりをかけ、EU加盟国アイルランドと英領北アイルランドの国境問題をめぐる「バックストップ(安全策)」措置を協定案から削除するという英政府の要求に応じさせるという狙いがある。

このため、こうした離脱方針に反対する勢力を封じ込めるため、9月3日に再開したばかりの議会を9月10日から10月13日まで閉会することを一方的に決定。これに反発する野党議員らが提訴していた。

最高裁は議会閉会に正当な理由がなく、議会が憲法で定められた職務を遂行するのを妨げたとして、11人の裁判官が全会一致で違法と判断した。ジョンソン首相は国連総会出席のため滞在していたニューヨークで、判決に反発しながらも「尊重する」と述べた。

ジョンソン首相はニューヨーク滞在予定を変更し、25日に再開された議会に出席。野党議員から議会閉鎖決定への謝罪と辞任を求められたが拒否し、合意なき離脱も辞さない姿勢も崩さなかった。

英国では10月19日までに英議会が離脱協定案を承認し、円滑な形で離脱することが決まらなければ、10月31日となっている離脱期限を2020年1月31日まで延期することをEUに要請するよう政府に義務付ける法案が成立済み。しかし、ジョンソン首相は同日の議会で、同法を「EUに降伏する法律だ」と批判し、延期を要請しない方針を示した。

ジョンソン首相が延期を要請せず、10月31日のEU離脱を実現するためには、10月17、18日のEU首脳会議で離脱協定案について合意し、英議会の承認を得て、10月31日に秩序ある形で離脱するという手がある。しかし、協定案見直しをめぐるEUとの協議は進んでいない。仮に合意したとしても、与党・保守党が過半数を割り込んだ下院で、承認されない可能性がある。

もうひとつの手段が、野党に握られた議会の主導権を奪い返すため、解散総選挙に打って出ることだ。しかし、英国では首相に解散権はなく、下院議員の3分の2以上の賛成か、内閣不信任案の可決が必要。ジョンソン首相は9月に入って2度、解散総選挙実施を提案したが、いずれも野党の反対で拒否された。

野党側は合意なき離脱の回避を最優先するため、離脱期限の延期が決まらない限り、総選挙に応じないとしている。首相は25日、議会が「まひ状態」にあるとして、こうした状況を打開するには総選挙を実施するしかないと発言。これに応じない野党を批判し、「議会は離脱を政府に任せて傍観するか、内閣不信任案を出すしかない」と述べ、不信任案を出すよう挑発した。「かかって来い」という発言まで飛び出した。しかし、野党側は合意なき離脱の回避が確定するのが総選挙の条件という姿勢を堅持した。

一方、野党側は離脱延期を前提に総選挙の準備に入っている。最大野党・労働党は23日の党大会で、コービン党首が提案した選挙公約を承認した。政権を握った場合は、まずEUと新たな離脱協定案をめぐる交渉を進める。合意すれば国民投票を実施し、同案を受け入れてEUを離脱するか、離脱を撤回して残留するかを問うという内容で、離脱反対派の票を取り込んで政権を奪取する狙いがある。