2010/8/9

産業・貿易

EU共通特許構想に暗雲、伊が英仏独3言語体制移行に反発

この記事の要約

EU共通の単一特許制度における使用言語をめぐり、イタリアが英語・仏語・独語の3言語体制への移行に反発を強めている。すべての加盟国で有効な「EU特許」の創設に合わせ、欧州委員会は英・仏・独語のうち1つの言語だけで出願できる […]

EU共通の単一特許制度における使用言語をめぐり、イタリアが英語・仏語・独語の3言語体制への移行に反発を強めている。すべての加盟国で有効な「EU特許」の創設に合わせ、欧州委員会は英・仏・独語のうち1つの言語だけで出願できる仕組みの導入を提案しているが、イタリア政府は翻訳費用が不要となるフランスやドイツなどの企業を優遇するシステムで「言語上の差別」が生じると批判している。欧州委は特許出願に必要な翻訳費用を最小限に抑えることが企業による研究・開発(R&D)投資やイノベーションの推進につながるとして、年内の合意を目指す方針を示しているが、スペインも自国言語が選択肢から除外されることに難色を示しており、調整は難航が予想される。

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現在EUで特許を取得する仕組みとしては、各国で出願して個別に審査を受ける方法と、欧州特許庁(EPO)に出願して「欧州特許」を取得する方法がある。ただ、欧州特許も最終的な認可権限は各国の特許庁が握っており、特許を取得したい国の制度に合わせてそれぞれ書類を用意しなければならない。これに対し、欧州委案ではEPO がEU特許の認可権を持ち、企業は英仏独のいずれかの言語で書類を作成すれば済む。認可された場合はクレーム(特許請求の範囲)部分を選択しなかった2言語(たとえば英語で出願した場合は仏語と独語)に翻訳する必要があるが、特許を取得したい国ごとに必要書類を翻訳する手間が省け、27カ国すべてで有効な特許が付与される。

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欧州委によると、EU域内の13カ国で特許を取得するために必要な費用は合計2万ユーロと米国(平均1,850ユーロ)の10倍以上に上り、このうち翻訳費用が約7割を占めている。一方、共通特許制度が導入されて1言語による出願・審査が可能になれば、翻訳費用は700ユーロ程度に抑えられ、EU特許の登録費用は6,200ユーロ以下で収まるとみられている。英エコノミスト・グループが発行するEU情報専門の週刊紙ヨーロピアン・ボイスによると、イタリア政府は他のEU加盟国に宛てた文書の中で、欧州委のコスト計算は「偏った」「明らかに古い」データに基づいており、論理的根拠に乏しいと指摘。3言語体制への移行はフランス、ドイツ、オーストリアなどの企業に有利に働き、自国企業は言語上の差別による不利益を被ることになると非難している。

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