2010/7/5

産業・貿易

EU共通特許構想が前進、欧州委が1言語での出願方式を提案

この記事の要約

欧州委員会は1日、EU共通の単一特許制度における使用言語についての取り決めを提案した。域内の複数の国で特許を取得する場合、現在は各国の言語に出願資料を翻訳する必要があるが、欧州委案ではすべての加盟国で有効な「EU特許」の […]

欧州委員会は1日、EU共通の単一特許制度における使用言語についての取り決めを提案した。域内の複数の国で特許を取得する場合、現在は各国の言語に出願資料を翻訳する必要があるが、欧州委案ではすべての加盟国で有効な「EU特許」の創設に合わせて英語・仏語・独語のうち1つの言語だけで出願できる仕組みが導入される。3言語体制への移行にはスペインなどが反発する可能性もあるが、欧州委は翻訳費用を最小限に抑えることが域内企業による研究・開発(R&D)投資やイノベーションの推進につながると強調し、年内の合意を目指して意見調整を図る意向を示している。

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EU加盟国は昨年12月、域内の特許制度を一元化することで合意し、すべての加盟国で同じ効力を持つEU特許を創設するとともに、特許関連の紛争処理にあたる「EU特許裁判所」を設置することを決めた。欧州委が2000年に「共同体特許に関する規則(案)」を打ち出してから約10年、EUはようやく単一特許制度の創設に向けて大きな一歩を踏み出したが、共通特許の使用言語をめぐる問題が最後の懸案事項として残った。自国言語が選択肢から除外されることにスペインとイタリアが難色を示したためで、加盟国は別途ルールを設けることで合意し、欧州委が具体策を検討していた。

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現在EUで特許を取得する仕組みとしては、各国で出願して個別に審査を受ける方法と、欧州特許庁(EPO)に出願して「欧州特許」を取得する方法がある。ただ、欧州特許も複数の締結国で保護される複数の特許と位置付けられているため、最終的な認可権限は各国の特許庁が握っており、特許を取得したい国の制度に合わせてそれぞれ書類を用意しなければならない。これに対し、欧州委案ではEPOがEU特許の認可権を持ち、企業は英仏独のいずれかの言語で書類を作成すれば済む。認可された場合はクレーム(特許請求の範囲)部分を選択しなかった2言語(たとえば英語で出願した場合は仏語と独語)に翻訳する必要があるが、特許を取得したい国ごとに必要書類を翻訳する手間が省け、27カ国すべてで有効なEU特許が付与される。

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欧州委によると、EU域内の13カ国で特許を取得するために必要な費用は合計2万ユーロと米国(平均1,850ユーロ)の10倍以上で、このうち翻訳費用が約7割を占めている。共通特許制度が導入されて1言語による出願・審査が可能になれば、EU特許の登録費用は6,200ユーロ以下(うち翻訳費用は10%程度)に抑えられると試算している。

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欧州委のバルニエ委員(域内市場・サービス担当)は声明で「EUが国際競争力を高めるにはイノベーションを推進しなければならないが、実際には特許取得に必要な多額の費用と複雑な手続きが技術革新の妨げになっている。すべての加盟国で有効なEU特許が欧州におけるR&D投資を促進し、成長を牽引する鍵となる。EU特許の実現に必要な要素のうち最後の懸案となっていた翻訳に関する提案は、とりわけ中小企業にとって朗報といえる」とコメントした。

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