2012/7/16

環境・通信・その他

欧州委、回線使用料の強制引き下げ見送り

この記事の要約

欧州委員会は12日、EUレベルで高速インターネットの普及拡大を図るための規制の方向性を打ち出した。大手通信会社に光ファイバー網への投資を促すため、当初は中小の回線事業者などに電話回線を提供する際の料金を強制的に引き下げる […]

欧州委員会は12日、EUレベルで高速インターネットの普及拡大を図るための規制の方向性を打ち出した。大手通信会社に光ファイバー網への投資を促すため、当初は中小の回線事業者などに電話回線を提供する際の料金を強制的に引き下げる方向で検討を進めていたが、自国で電話回線をほぼ独占的に保有するテレコムイタリア、テレフォニカ、フランステレコムなどが強く反発。最終的に回線使用料の規制を強化するよりも、規制上の不確定要素を取り除いて安定的に収益を確保させることがインフラ構築への投資促進につながると判断した。クルース副委員長(デジタルアジェンダ担当)は今秋にも2020年まで有効な規制の枠組みを提案する方針を示している。

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EUは2020年までに取り組むべき情報通信技術(ICT)分野の優先課題をまとめた「デジタルアジェンダ」で、高速インターネットの普及促進を最も重要な政策の1つと位置付け、同年までにすべてのEU市民が通信速度30メガビット/秒以上のブロードバンド接続サービスを利用できるようにすることなどを目標に掲げている。しかし、これまでのところ米国、日本、韓国などに比べて高速ブロードバンドの普及が大幅に遅れているのが実情。欧州委は域内全域に光ファイバー網を構築するには総額2,700億ユーロの資金が必要との試算をまとめ、規制を含めた投資促進策を検討していた。

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欧州委の提言によると、大手通信会社は「非差別的条件」で電話回線を第3者に提供することが義務づけられるが、中小の事業者に適用する回線使用料を引き下げる必要はない。さらに光ファイバー網の提供に際し、少なくとも20年まではネットワークを保有する大手通信会社が自由に回線使用料を設定することができる。

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クルース副委員長は当初、大手通信会社が回線事業から得る利益を圧迫することでビジネスモデルの転換を促し、光ファイバー網への投資を加速させることができるとして、料金規制を強化する方針を示唆していた。しかし、各国での現状分析を通じ、回線使用料とインフラ投資の間には必ずしも明確な相関関係があるわけではないことが判明。「さまざまな選択肢について詳細に分析した結果、当面は現行システムを維持して大手通信会社に安定的に収益を確保させることが最適な投資環境につながると判断した」と説明している。

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大手通信会社が加盟する欧州通信ネットワーク事業者協会(ETNO)のガンバルデッラ会長は「長期的な規制の方向性が示されたことは投資家の信頼を得るうえで大きな前進だ」と述べ、欧州委の提言を歓迎している。しかし、中小通信事業者の団体である欧州競争電気通信事業者協会(ECTA)のルーハン会長は「大手通信会社は将来にわたってネットワークを支配することが可能になり、中小の事業者と消費者は引き続き不当に高い回線使用料を請求されることになる」と欧州委のアプローチを批判している。

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