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2019/1/23

総合・マクロ

プーチン大統領がセルビアを訪問、多数の提携文書に調印

この記事の要約

ロシアのプーチン大統領は17日、公式訪問先のセルビアで同国のブチッチ大統領と会談し、原子力の平和利用に向けた枠組み合意に調印した。また、同会談を受けて両国は宇宙技術、鉄道インフラ、水力発電、石油、天然ガス、防衛など広範な […]

ロシアのプーチン大統領は17日、公式訪問先のセルビアで同国のブチッチ大統領と会談し、原子力の平和利用に向けた枠組み合意に調印した。また、同会談を受けて両国は宇宙技術、鉄道インフラ、水力発電、石油、天然ガス、防衛など広範な分野で提携に合意し、文化学術交流を強化する方針を確認した。このほか、デジタル技術、電力分野などでの協力でも覚書を多数交わした。

新プロジェクトとしては、天然ガスパイプライン「トルコ・ストリーム」をブルガリア、セルビア、ハンガリー、オーストリアへ延長する新たなパイプラインにロシアが14億米ドル投資することが決まった。

ロシア国鉄(RZD)はセルビアの鉄道インフラ近代化、総合配送センターの整備を担当する。同プロジェクトへの投資規模は2億3,000万ユーロに上る。

プーチン大統領がこの時期にセルビアを訪問したのには、外交的な駆け引きがある。マケドニアの国名問題が解決し、同国の欧州連合(EU)・NATO加盟が現実的になったことで、バルカン半島におけるロシアの存在感をアピールする必要があるためだ。セルビアでは、コソボ独立未承認といった政治判断が評価され、プーチン大統領の人気が高い。セルビア国民の歓迎ぶりが報道されるだけでも一定の効果がある。

一方、セルビアのブチッチ大統領にとっては、プーチン大統領の訪問で、継続する反政府運動から国民の目をそらせることができる。また、ロシアとの友好関係を強調することで、欧州連合(EU)との交渉を有利に進めようという思惑もある。

バルカン地域の専門家らによると、ロシアの力は西バルカン諸国における欧米の存在をはねかえすには足りないが、欧米の動きを妨害するのには十分だ。セルビアは天然ガス需要の全量をロシアに依存するという弱い立場にあるが、ブチッチ大統領は、ロシアがセルビアのEU加盟を妨げられないと踏み、ロシアとの友好関係をアピールすることでEUとロシアの双方から利益を引き出す綱渡りを行っている。

EU側は西バルカン地域の安定を第一に考え、ブチッチ大統領の強権化に対する反対が強まっている事実には目をつぶる。対セルビア政策では、同国が国際通貨基金(IMF)の勧告に従い財政赤字を減らし、EUとの統合・コソボとの関係正常化の道を進むことを優先させている。