小売大手の多くはテナント料の支払いを4月以降、見合わせる意向だ。住宅・店舗の賃貸料を借り手が一時的に支払わなくても、賃貸契約を解除できないことを定めた法案が3月27日までに議会で可決されたためだ。同法案は新型コロナウイルスの流行で資金繰りが悪化した世帯や小規模事業者を想定して策定されたものだが、大手企業も先行き見通しの不透明感を受けて資金繰りに不安があることから、賃貸料支払い猶予ルールを活用する。
企業は新型コロナの流行に伴う受注の激減や営業停止命令で資金繰りが急速に悪化しても、店舗の賃貸料などを払い続けなければならない。賃貸住宅に住む借家人も事情は同じで、収入が大幅に減少しても家賃を毎月、支払わなければならない。
政府は新型コロナの流行とそれに対する政府の対策が原因で借り手が賃貸料を払えなくなり、貸し手から契約を解除されるという事態を回避するための時限法案を作成し、議会で可決させた。借り手は4月1日~6月30日の3カ月間、家賃を支払えなくても解約されないというもので、この間の未納家賃は2022年6月末まで支払いが猶予される。
家賃の支払いが遅れた場合、貸し手は通常4%の遅延損害金を請求できる。大手企業は政策金融機関からほぼゼロ金利で融資を受けることができるものの、融資額には限度があるうえ、先行きを読めないという事情もあることから、資金繰りを確保するために賃貸料支払いの猶予を認める時限ルールを活用する。
スポーツ用品大手アディダスの広報担当者はロイター通信に、このルールに基づいて直営店の賃貸料の支払いを4月から一時的に停止することを明らかにした。家電量販大手メディア・ザトゥーン、靴販売大手ダイヒマン、香水販売大手ダグラスも同様の考えを示している。
大手のこうした動きに対しては政界から批判が出ている。与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)のヤンマルコ・ルツァク議員(法政策担当)は、賃貸料支払い猶予ルールは財務力の高い大手企業を想定して策定したものではないと指摘。大手企業が賃貸料の支払いを停止すれば、貸し手は経済的に厳しい状況に追い込まれると懸念を表明した。貸し手の大半は銀行融資で商業施設を建設・取得しており、借入金を返済できなくなる恐れがある。