欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/9/14

EU情報

自宅から用務地までの移動時間は「労働時間」、司法裁が判断

この記事の要約

EU司法裁判所は10日、固定的な活動拠点をもたない労働者が顧客や取引先を訪問する際、自宅から最初の目的地と、最後の目的地から自宅までの移動時間は労働時間とみなされるとの判断を示した。自宅から直接、用務先に向かい、業務終了 […]

EU司法裁判所は10日、固定的な活動拠点をもたない労働者が顧客や取引先を訪問する際、自宅から最初の目的地と、最後の目的地から自宅までの移動時間は労働時間とみなされるとの判断を示した。自宅から直接、用務先に向かい、業務終了後に出先から帰宅するケースが多い電気技師、修理工、介護士などの賃金計算に影響が及ぶ可能性が高く、経営者団体などからはコスト負担の増大を懸念する声が上がっている。

今回の事案は防犯設備の設置やメンテナンスを手がけるスペインのタイコを相手取り、同社の従業員が訴訟を起こしたもの。従業員らは自宅から社用車で最初の訪問先に向かい、担当地域で複数の顧客に対応した後、そのまま帰宅するという勤務形態をとっている。同社では最初の訪問先に到着した時点から、最後の訪問先を退出した時点までを1日の勤務時間として賃金計算を行っており、従業員らはこれがEU労働時間指令に違反するとして提訴。スペインの裁判所がEU司法裁に判断を求めていた。

司法裁は判決で、タイコのようなケースでは顧客にサービスを提供するうえで、移動時間も業務の不可欠な要素であることは明らかだと指摘。原告の主張を全面的に支持し、最初と最後の訪問先と自宅までの移動時間を労働時間とみなすべきだと結論づけた。

今回の判決に対し、労働時間指令が定める週48時間労働の適用除外(オプト・アウト)が認められている英国を中心に強い反発が起きている。英国経営者協会(IOD)は「企業は人件費の増大に直面することになる。EU司法裁は欧州企業を苦しめている」と非難。英国商工会議所(BCC)の幹部も「司法裁は再び英国の景気動向、雇用情勢、経済成長に深刻な影響を及ぼす判決を下した」と述べ、労働政策に関して各国の意思決定が尊重されるべきだとの考えを示している。