主要な社員を競合企業に大量に引き抜かれると、事業のノウハウなどが失われ、大きな痛手を受ける。では引き抜きに違法性が認められる場合、社員の引き抜きで損失を被った企業は損害賠償を請求できるのだろうか。この問題をめぐる係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が9月26日に判決(訴訟番号:10 AZR 370/10)を下したので、ここで取り上げてみる。
\裁判は土木会社Heilit+Woerner(旧Walter-Heilit Verkehrswegebau)が建設大手ビルフィンガー・ベルガーを相手取って起こしたもの。Walter-Heilitの親会社ヴァルター・バウは2005年に経営破たんし、Walter-Heilitは同業のStrabagに買収された。
\ビルフィンガーも同社の買収を狙っていたものの失敗。これを受けて、Walter-Heilitの社員データを違法な手段で入手し、幹部社員50人を引き抜いた。
\Strabagの下でHeilit+Woernerとして再スタートを切った同社は幹部社員を失った影響もあり、受注が激減。05年と06年には計4,600万ユーロの赤字を計上した。
\Heilit+Woernerはこれを受け、赤字を計上した原因はビルフィンガーの違法な引き抜きにあるとして提訴し、損害賠償4,600万ユーロの支払いを請求した。
\第1審と第2審は原告の訴えを棄却し、最終審のBAGも下級審判決を支持した。判決理由で裁判官は、ビルフィンガーが違法な手段でデータを入手したことを認めたものの、社員の引き抜きと4,600万ユーロの赤字計上の間に明確な因果関係を立証することはできないとの判断を示した。また、損害額を算出する具体的なデータがないとして、民事訴訟法(ZPO)287条1項に基づく損害賠償額の公正な算定はできないとの判断を示した。
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