2010/5/3

環境・通信・その他

景気後退で温効ガス削減コスト縮小、中期目標引き上げ検討=欧州委

この記事の要約

欧州委員会は経済危機に伴う生産活動の停滞で、域内における二酸化炭素(CO2)排出量が事前の予想を大幅に下回り、EUが掲げる温室効果ガス削減目標の達成に必要なコストが3分の1程度圧縮されると分析している。英紙フィナンシャル […]

欧州委員会は経済危機に伴う生産活動の停滞で、域内における二酸化炭素(CO2)排出量が事前の予想を大幅に下回り、EUが掲げる温室効果ガス削減目標の達成に必要なコストが3分の1程度圧縮されると分析している。英紙フィナンシャルタイムズ(FT)が入手した欧州委の調査報告書によると、同委はEU経済が今後、成長局面に転じたとしても、新たに導入された政策によって目標達成に必要なコストが当初予想された水準に達することはないとみており、2020年を達成期限とする中期目標の引き上げについて近く本格的な検討に入るもようだ。

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FT紙によると、欧州委は温室効果ガス排出量を2020年までに1990年比で20%削減し、同年までに域内におけるエネルギー消費量の20%を再生可能エネルギーで賄うという中期目標を達成するためのコストについて、当初は域内総生産(GDP)の0.45%に相当する総額700億ユーロと見積もっていた。しかし、経済危機に伴う製造業の生産縮小により、09年はCO2排出量が予想を大幅に下回る水準となったことから、目標達成に要するコストを当初の試算より220億ユーロ少ない480億ユーロ(対GDP比0.32%)に下方修正。そのうえで、20年までの中期目標を「90年比で30%削減」に変更した場合、新たに330億ユーロが必要となり、総コストはGDPの0.54%に相当する810億ユーロに達すると予測している。

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報告書は一方、目標を引き上げた場合のメリットとして、化石燃料の使用量が減ることで大気の質が改善され、人間の健康や環境へのリスクを低減することができると指摘。医療費の削減などにより、2020年時点で65-100億ユーロの経済効果が見込めると試算している。また、より厳しい中期目標を設定することで、「2050年までに1990年比で80%削減」という長期目標の達成が容易になり、結果的にコスト削減につながると指摘している。

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排出権価格は引き続き低い水準で推移しており、アナリストらの間では現在のような状態が続けば企業の取り組みが遅れ、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を図るための投資が停滞するとの見方が広がっている。欧州委はこの点に関連して、2013-20年に14億トン分の排出枠がオークション方式で有償配分された場合、排出量取引制度の対象企業で削減努力が進み、20年までに90年比30%減の目標を達成することができると分析している。

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EU内では英国などが中期目標の引き上げを支持する一方、イタリアやポーランドなどは強硬に反対している。欧州委は今後の国際交渉でEUが主導権を握るため、国連での協議が再開されるまでに加盟国の意思統一を図りたい考え。6月にはボンで国連気候変動に関する特別作業部会が開催されることになっており、FT紙は欧州委のヘデゴー委員(気候変動担当)が近くEU各国の担当相を招集し、中期目標を引き上げた場合のコストとメリットについて協議すると報じている。

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