2010/8/2

総合 –EUウオッチャー

EUとアイスランドの加盟交渉開始、漁業問題で早くも火花

この記事の要約

EUとアイスランドの加盟交渉が7月27日に開始された。金融危機で大打撃を受けたアイスランド政府は、EU加盟を経済再建の切り札としたい考えで、2012年の加盟実現を目指すが、漁業をめぐる交渉が大きな難関となりそうだ。\ 加 […]

EUとアイスランドの加盟交渉が7月27日に開始された。金融危機で大打撃を受けたアイスランド政府は、EU加盟を経済再建の切り札としたい考えで、2012年の加盟実現を目指すが、漁業をめぐる交渉が大きな難関となりそうだ。

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加盟交渉は当面、準備段階が続き、11月から来年半ばにかけてEUのルールと双方の国内法を照らし合わせる「スクリーニング」と呼ばれる作業に着手し、互いのルールの違いを検証する。その上で個別の分野ごとに本格的な交渉が始まる。

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すでにアイスランドはEU加盟国を主体とする欧州経済領域(EEA)に参加し、EU経済に事実上組み込まれている。欧州内での出入国審査を廃止する「シェンゲン協定」にも参加済みだ。国内法とEU法の調和も進んでいる。このため、加盟交渉の障害は過去の例と比べて非常に少ない。

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ただし、漁業分野に関する交渉が難航するのは必至の情勢だ。アイスランドにとって漁業は経済の柱で、厳しく漁業資源を管理しならが漁業水域を保全してきたが、EUに加盟すると共通漁業政策に組み込まれ、水域を他の加盟国に開放しなければならない。加盟交渉では、この問題について何らかの特例措置を確保したいところだ。

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初日の協議終了後に行われた共同記者会見で、アイスランドのスカルプヘイジンソン外相はさっそく同問題に言及。EUの共通漁業政策では水産資源保護が不十分で、乱獲が進んでいることに触れ、アイスランドが現在確保している漁業水域を「特別管理水域」とし、加盟後もアイスランドが単独で管理することを提案した。これに対して、欧州委員会のフューレ委員(EU拡大担当)は、「恒久的な」特例扱いは認められないとけん制。早くも同問題で火花を散らした。同委員は加盟から一定期間に限って、暫定措置として特例扱いを認める用意があることを示唆しており、交渉では、この暫定措置をどの程度まで認めるかが最大の焦点となりそうだ。

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このほか、アイスランドで行われている捕鯨が、EUのルールでは禁止されていることも問題点で、同じく特例扱いをめぐる攻防が繰り広げられるとみられる。

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また、08年に破たんした大手銀行ランズバンキのネット銀行「アイスセーブ」の外国人口座が閉鎖されたことで、英、オランダ人預金者の資金が凍結されている問題の解決も必要だ。英、オランダは同問題とEU加盟を切り離し、交渉開始を受け入れたものの、これが解決されるまで正式加盟を認めない方針だ。

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アイスランドは漁業での主権を維持するためEU加盟を見送ってきたが、金融危機で銀行システムが崩壊し、全銀行が国有化されるという事態に直面。昨年4月の総選挙で誕生した社会民主同盟(SDA)を中心とする連立政権は、経済再建にはEUに加盟しユーロも導入し、信用を回復することが必要と判断し、同年7月に加盟を申請していた。

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アイスランド政府は加盟交渉が完了し、EUから加盟を承認されたとしても、国民投票で支持を取り付けなればならない。これが現在、不安要素となっており、金融危機の最中には7割に達していた支持率が、6月の調査では26%に落ち込んだ。金融危機の最悪期が過ぎ、EU加盟より漁業主権維持を重視する人が増えてきたとみられる。この国民投票を乗り切るためにも、政府はEUとの交渉を有利に進める必要に迫られている。

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