2011/6/6

環境・通信・その他

EUの「デジタルアジェンダ」、高速ブロバン網整備など停滞

この記事の要約

欧州委員会は5月31日、2020年までにEUが取り組むべき情報通信技術(ICT)分野の優先課題をまとめた「デジタルアジェンダ」の進捗状況に関する評価報告を公表した。デジタルアジェンダはEUの新たな成長戦略「欧州 2020 […]

欧州委員会は5月31日、2020年までにEUが取り組むべき情報通信技術(ICT)分野の優先課題をまとめた「デジタルアジェンダ」の進捗状況に関する評価報告を公表した。デジタルアジェンダはEUの新たな成長戦略「欧州 2020」の柱の1つとして欧州委が昨年5月に打ち出したもので、インターネットを利用したさまざまなサービスの普及による単一市場の創設、高速インターネットの普及促進、ICT分野への投資促進などを政策課題として掲げている。欧州委は初年度の進捗について、全体としては目標の実現に向けて順調に進展しているものの、超高速ブロードバンド通信網の整備など一部の施策で遅れが目立つと指摘。デジタルアジェンダの実現を通じてEUの競争力を強化するため、加盟国にさらなる取り組みを求めている。

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デジタルアジェンダは31の法案を含む101の施策を掲げ、20年までに達成すべき目標を設定している。具体的には◇13年までにすべてのEU市民がブロードバンド通信網にアクセスできるようにする◇20年までにすべてのEU市民が30メガビット/秒(Mbps)以上の高速ブロードバンドを利用できるようにし、同時に域内の半分の世帯で通信速度100Mbps以上のサービスを利用可能にする◇15年までに電子商取引と国境を越えた電子商取引の人口普及率をそれぞれ50%、20%に引き上げる◇ローミング料金をさらに引き下げ、15年までに国内と他のEU諸国で携帯電話を使用する際の料金格差をほぼゼロにする――などが盛り込まれている。

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欧州委が各国政府や規制当局などからの報告を基にまとめた「スコアボード」によると、このうち6項目は計画に遅れが生じているものの、11項目はすでに全プロセスが完了しており、残りの約9割は20年までの達成期限に向けて概ね順調に進捗している。たとえば定期的にインターネットを利用している人の割合は15年時点で75%の目標に対し、すでに65%に達している。また、インターネットを利用したことがない人を15年までに人口の15%以下に減らすとの目標に対し、この割合は過去1年で30%から26%に低下した。電子商取引もEU市民の40%が利用しており、域内の8カ国ではこの割合が50%を超えている。

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また、EU市民の41%が電子行政サービスを利用しており、15年までに個人と企業による利用比率をそれぞれ50%、80%まで引き上げるとの目標に近づいている。さらに発光ダイオード(LED)をはじめとする半導体照明の市場シェアが09年の1.9%から10年は6.2%に拡大しており、欧州委は照明によるエネルギー使用量を20年までに20%減らすとの目標は達成可能とみている。

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一方、超高速ブロードバンド通信網はごく限られたエリアを除いて整備が進んでおらず、欧州委は目標の達成に向けて取り組みを強化するよう加盟国に求めている。また、国境を越えた電子商取引の利用者は人口の8.8%(前年比0.7ポイント増)にとどまり、15年までに20%の目標達成は厳しい情勢。さらに携帯電話のローミング料金は引き続き下落傾向にあるものの、国外で使用する際の通話料金は国内料金の3倍に上り、依然として内外格差が大きい。このほかデジタルアジェンダはICT分野の研究・開発(R&D)への公的投資を20年までに年間110億ユーロに倍増させる目標を掲げているが、10年の投資額は57億ユーロにとどまった。欧州委は目標達成に向けて年6%のペースで公的投資を拡大する必要があると指摘している。

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