2013/3/25

総合 –EUウオッチャー

キプロスが金融支援の条件で合意、全預金者への課税は回避

この記事の要約

ユーロ圏17カ国の財務相会合は25日未明、金融・債務危機に直面するキプロス政府がEUと国際通貨基金(IMF)から金融支援を受けるために必要となる条件について合意した。キプロスは当初予定していた全預金者への課税に代わって、 […]

ユーロ圏17カ国の財務相会合は25日未明、金融・債務危機に直面するキプロス政府がEUと国際通貨基金(IMF)から金融支援を受けるために必要となる条件について合意した。キプロスは当初予定していた全預金者への課税に代わって、大手2銀行の整理、大口預金者に負担を強制することを求められる。同国は先にユーロ圏と金融支援の条件として合意した預金課税案が議会で否決され、25日までに新条件で合意しなければ欧州中央銀行(ECB)が国内銀行への資金繰り支援を打ち切り、金融システム崩壊に追い込まれる状況にあったが、瀬戸際で同危機を回避し、最大100億ユーロの支援を取り付けることが決まった。

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同合意によると、キプロス政府は国内銀行の中で最も経営難が深刻な2位銀行のキプロス・ポピュラー(ライキ)銀行を即時に清算し、不良資産と預金保険で保護されない10万ユーロを超える預金からなる「バッド・バンク」と、優良資産と10万ユーロ以下の預金を引き継ぐ「グッド・バンク」に分割。10万ユーロを超える預金者と全債権者に大幅な負担を求める。

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グッド・バンクは最大手キプロス銀行が吸収する。キプロス銀行は縮小を軸とする再編を求められ、10万ユーロを超える預金は再編完了まで凍結される。同預金は資本増強に投入されるため、大口預金者は大きな負担を強いられる。負担の規模は未定だが、預金の最大40%の放棄を迫られるとの観測が浮上している。

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キプロスは巨額のギリシャ国債を保有する国内銀行がギリシャの信用不安で大きな損失を被り、経営破たんの危機に陥っている。政府も財政危機にあり、昨年6月にEUに金融支援を要請していた。

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ユーロ圏は15日の財務相会合で、キプロスにIMFと共同で最大100億ユーロの金融支援を実施することで合意したが、その条件として同国が国内銀行の預金への課税によって58億ユーロの自主財源を確保することを要求。これを受けて政府は10万ユーロを超える大口預金に9.9%、10万ユーロ以下の少額預金に6.75%を課税することを決めた。

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ユーロ圏はギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペインに金融支援を実施しているが、預金者に負担を強いるのはキプロスが初めて。キプロスの銀行にロシアから巨額の資金が流れ、一部がマネーロンダリング(資金洗浄)に利用されている疑惑が浮上していることが背景にある。

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しかし、預金課税は国内の預金者の大きな動揺を招き、政府は銀行の営業を18日から休止したものの、現金自動出入機(ATM)から預金を引き出そうとする人が殺到する事態を招いた。これを受けてユーロ圏の財務相は18日の電話協議で、預金者に58億ユーロを負担させる方針は堅持しながらも、少額預金者の負担を減らすことで一致。キプロス政府は2万ユーロ以下の預金には課税しない方向に法案を修正した。

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それでも預金課税への国民の反発は収まらず、19日に行われた議会の採決では反対36、棄権19、賛成ゼロという圧倒的多数で法案が否決された。これに対してECBは21日、キプロスが25日までにEUと支援策で合意しなければ国内銀行への緊急流動性支援を中止すると通告していた。

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これを受けて政府は、巨額の不良債権を抱える大手銀行の整理による銀行救済資金の圧縮、年金基金などを活用した「連帯基金」の創設による資金調達、26日に予定されている銀行の営業再開に伴う資金流出を防ぐための資本規制導入という危機対策をまとめ、22日に関連法案が議会で可決された。しかし、これだけでは必要となる58億ユーロの自主財源確保には足りないことから、政府は大口預金者への負担強制を含めた新たな条件について、24日からEU、IMFと交渉を行っていた。

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アナスタシアディス大統領とEUのファンロンパイ大統領(欧州理事会常任議長)、IMFのラガルド専務理事による協議では、EU・IMF側が預金課税については国民の反発を考慮して見送り、全銀行の10万ユーロ以下の預金を保護することを認めた一方、キプロスの金融システムが海外富裕層からの資金流入によって国内経済の実体に見合わない突出した規模に膨らんでいるとして、不良債権処理が行き詰まっている2大銀行の整理を要求。これをめぐって紛糾したが、最終的にキプロス銀行については縮小した上で存続させることで合意し、25日未明に交渉が妥結。引き続き行われたユーロ圏の臨時財務相会合で承認された。

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2銀行の大口預金者への負担強制は、課税の形ではなく銀行再編の一環として実施されることから、議会の承認は必要としない。

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銀行への資金繰り支援中止とEU、IMFによる支援の見送りは、金融システムの崩壊だけでなく、国家経済の破綻をも招くことから、政府は一時、ロシアに金融支援を要請したが、拒否されたことから断念。ようやくEUによる支援実施の環境を整え、当面の危機を脱した。

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最大100億ユーロの金融支援は、ユーロ圏各国の承認手続き完了を経て、4月中旬に正式決定される見通しだ。

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