2011/3/21

産業・貿易

欧州委が法人税の課税標準統一を提案、アイルランドなどは反対に

この記事の要約

欧州委員会は16日、法人税の課税標準を域内で統一する案を発表した。EU内で活動する企業を対象に「共通連結法人税課税標準(Common Consolidated Corporate Tax Base=CCCTB)」と呼ばれ […]

欧州委員会は16日、法人税の課税標準を域内で統一する案を発表した。EU内で活動する企業を対象に「共通連結法人税課税標準(Common Consolidated Corporate Tax Base=CCCTB)」と呼ばれるシステムを導入し、法人利益の計算方法を一本化する。

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CCCTBは域内市場統合の一環として導入するもの。域内の複数国で事業を展開する企業は現在、加盟国によって法人税の課税標準が異なるため、税務処理の負担が大きい。欧州委は課税標準を共通化することで、域内の国境を超えて活動する企業の税務処理に伴う負担を軽減したい考え。二重課税の回避や、ある国で生じた利益と他の国で生じた損失の相殺といった問題に対応でき、複雑な移転価格税制も統一されるといった利点を挙げ、新制度導入への意欲をみせている。企業の税務コストは域内全体で年7億ユーロ軽減されるとしている。

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EUでは法人税制の調和をめぐり、税率が高くて競争力、企業誘致などの面で不利なドイツとフランスなどが税率格差の是正を求め、加盟国の税率に下限を設けることを提案したが、税制に関する主権の維持にこだわる英国や、税率が低いアイルランドなどが反発し、欧州委はハードルを下げて課税標準の統一に絞って制度改正を進めることを決めた経緯がある。それでも法人税制改正は加盟国の利益にかかわる微妙な問題だけに調整が難航し、法案発表は当初予定の2008年から大幅にずれ込んだ。

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欧州委は今回の提案で、CCCTBを採用するかどうかは各企業の判断に委ねることを盛り込んだ。課税標準が共通化されたとしても各国は引き続き税率を自由に設定できる点も強調し、各国の理解を求めている。それでもEUでは税制に関するルール改正には加盟国の全会一致による承認が必要となることから、法案成立に向けた調整の難航は必至とみられる。

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欧州委の提案にとりわけ反対しているのはアイルランドだ。同国は法人税率を域内最低水準の12.5%に設定し、多くの多国籍企業の誘致に成功してきたことが独仏などから批判され、法人税制のルール改正に神経質になっているためだ。信用不安を受けてEUと国際通貨基金(IMF)から総額850億ユーロの緊急融資を取り付けた同国は、前週に開かれたユーロ圏首脳会議で返済条件の緩和を求めたが、独仏が条件として法人税率の引き下げを求めたばかり。アイルランド政府は課税標準の統一を税率調和の第一歩として強く警戒しており、抵抗が予想される。

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