2011/7/4

総合 –EUウオッチャー

欧州委がEU次期中期予算発表、金融取引税など「EU税」を提案

この記事の要約

欧州委員会は6月29日、EUの次期中期予算(対象期間:2014~20年)の原案を発表した。予算総額は現行中期予算(2007~13年)を5%上回る1兆250億ユーロ。金融取引税など「EU税」の導入により独自財源を強化し、加 […]

欧州委員会は6月29日、EUの次期中期予算(対象期間:2014~20年)の原案を発表した。予算総額は現行中期予算(2007~13年)を5%上回る1兆250億ユーロ。金融取引税など「EU税」の導入により独自財源を強化し、加盟国の負担を抑える方針だが、早くも一部の国から批判を浴びており、調整の難航が必至だ。

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EU予算では加盟国の負担に依存する体質が強まっており、現在は分担金が占める割合が76%に達している。中期予算をめぐっては、財政悪化を受けて各国が財政引き締めを迫られる中、ドイツ、英国など負担が大きい国々がEUも予算増加を凍結するよう要求。これに対して欧州議会は予算拡大を主張している。

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欧州委は最大の歳出項目である農業予算を据え置いたほか、EU機関職員の削減など行政コストを圧縮したものの、研究開発予算を大幅に増やした結果、予算は現行中期予算より膨らんだ。

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欧州委は予算増加による加盟国の負担増大を避けるため、EU共通の金融取引税、付加価値税(VAT)導入を提案した。金融取引税は通称「トービン税」と呼ばれるもので、EU内で活動する金融機関を対象に、株式や債券、外国為替などの取引に課税する。VATについては、加盟国が独自の税率を課し、税収の一部をEU予算に組み込む現行システムに代わり、EU共通の付加価値税として一律1%の税率を課し、全税収をEU予算に編入する。欧州委のレヴァンドフスキ委員(予算担当)によると、この新税導入によりEUは年間最大300億ユーロの財源を確保でき、独自財源が予算に占める割合が現在の2倍の40%まで増加し、加盟国の分担金が3分の1に縮小するという。

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欧州委は今後、これらのEU税の導入に向けた法制化作業に着手し、10月をめどに詳細を固める方針だ。欧州委のバローゾ委員長は、予算増額およびEU税導入について「現実的な提案だ」として理解を求めているが、予算成立には加盟27カ国の全会一致での承認が必要で、協議の難航は避けられない見通し。

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とくに金融取引税には障害が多い。EU単独で実施すると投資や金融取引が域外に流出する恐れがあるとして、すでに一部の国が反発しているためだ。その急先鋒が金融主権を重視する英国。首相府は29日発表の声明で、予算増額を「EUも加盟国と足並みをそろえて予算を引き締めるべきだ」と批判すると同時に、金融取引税を「企業の負担を増やし、EUの競争力を低下させる」として受け入れない姿勢を示した。

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