欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/6/1

EU情報

対米TTIPで欧州議会が交渉方針の勧告案、ISD条項の改善など提言

この記事の要約

欧州議会国際貿易委員会は5月28日、EUと米国が進める環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)交渉の重点課題をまとめた勧告案を賛成多数(賛成28、反対13)で承認した。世界貿易の約3割を占める巨大貿易圏で高いレベルの市場開放 […]

欧州議会国際貿易委員会は5月28日、EUと米国が進める環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)交渉の重点課題をまとめた勧告案を賛成多数(賛成28、反対13)で承認した。世界貿易の約3割を占める巨大貿易圏で高いレベルの市場開放を実現し、とりわけ域内の中小企業が米市場に参入しやすい環境をつくることがEU経済の成長につながるとしたうえで、投資家保護、食品や医薬品、自動車などの安全基準、環境保護、個人情報保護など幅広い分野でEU基準を堅持する必要があると指摘している。勧告案は6月10日の欧州議会本会議で採決が行われる見通しだ。

EUと米国は貿易と投資に関するあらゆる障壁の撤廃を目指し、2013年7月にTTIP交渉を開始した。これまで9回にわたり交渉会合が行われたが、食品安全や環境分野などにおける規制の調和や、投資家保護を目的とする投資家対国家の紛争解決(ISD)条項をめぐって協議が難航している。

ISD条項は、投資先の法律や制度が変更されたことで外国企業が損害を受けた場合、その企業が当該国を相手に中立的な国際機関に仲裁を申し入れ、制度の廃止や賠償を請求する権利を認める規定。海外で活動する企業にとってメリットがある一方、国家の規制権限が制限される側面もある。このためTTIPに同条項が導入された場合、農業、食品安全、環境など幅広い分野でEU側が譲歩を迫られ、結果的に消費者が不利益を被るといった懸念が広がっている。

国際貿易委はこうした点を踏まえ、「改善された公正な」仲裁システムを確立することで、欧州の投資家が米国で「不平等な扱い」を受ける事態を解消しなければならないと指摘。具体的には◇企業や団体などとの利害関係を持たない独立した仲裁人が常駐する仲裁機関の設置◇一般市民の参加を保証する公聴会の実施◇上訴制度の導入◇公共の利益を守るため、「規制する権利」を保証する規定の導入—-などの改善点を挙げている。

一方、物品貿易に関しては大部分の品目で関税撤廃を目指すものの、一部の農産品と工業製品については例外として自由化の対象から除外したり、関税廃止までの移行期間を長く設定するなどの措置が必要と指摘。欧州委員会に対し、例外品目の「包括的リスト」に沿って米側との交渉を進めるよう求めている。

このほか農業分野では、輸入増加に伴い域内の事業者に深刻な影響が及んだ場合、一時的に輸入を制限できる「セーフガード条項」を協定に盛り込むことや、地理的表示(GI)保護制度の維持、EUが定める高いレベルの食品安全基準の堅持などを提言している。

また、個人情報保護に関しては「交渉による譲歩の余地はない」と明言。さらに米国が導入している航空会社など輸送部門における外資規制の廃止や、公共サービス(水道事業、教育、医療、社会保障サービスなど)をTTIPの対象から除外することをなどが勧告案に盛り込まれている。