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2015/1/28

総合 - ドイツ経済ニュース

ギリシャで緊縮反対派が政権獲得、ユーロ相場に影響なし

この記事の要約

ギリシャの国政選挙で債権国などに対する債務削減要求と緊縮財政の中止を公約に掲げる急進左派連合(SYRIZA)がほぼ過半数の議席を獲得し、政権を握った。欧州連合(EU)などが財政支援の条件としている政策の廃棄を主張する同党 […]

ギリシャの国政選挙で債権国などに対する債務削減要求と緊縮財政の中止を公約に掲げる急進左派連合(SYRIZA)がほぼ過半数の議席を獲得し、政権を握った。欧州連合(EU)などが財政支援の条件としている政策の廃棄を主張する同党の勝利は沈静化している欧州債務危機を再発させる懸念があるものの、市場の反応は冷静で、ユーロ相場は安定。ユーロ加盟国の株価はギリシャを除いて上昇した。市場はギリシャの政権交代に伴うリスクを小さいとみているもようだ。

ギリシャでは25日に総選挙が実施され、野党SYRIZAが圧勝。300議席のうち149議席を獲得した。26日には右派ポピュリズム政党「独立ギリシャ人」と連立合意しSYRIZAのチプラス党首が首相に就任した。

SYRIZAはギリシャが債務危機に際してEU、国際通貨基金(IMF)から総額2,400億ユーロの緊急金融支援を受けた見返りとして約束した財政緊縮の放棄と、債権国に対する新たな債務削減要求を公約に掲げて選挙戦に臨み、緊縮策に反発する国民の支持を得た。

ただ、こうした方針が実現する可能性は低い。ユーロ圏財務相会合のデイセルブルム議長(オランダ財務相)は26日の記者会見で、今後も支援を受けたいのであれば新政権はギリシャが欧州委員会、欧州中央銀行(ECB)、IMFの3者(通称トロイカ)との間で交わした約束を守らなければならないと発言。約束の破棄は受け入れられないとの立場を明確に示した。ドイツなど他のユーロ加盟国や欧州委も同じ立場で、新規の債務削減要求についても「緊急の問題でない」(ユンカー欧州委員長)としてはねつけている。仮に同国の債務削減要求を受け入れると、財政危機に陥りEUの支援を受ける他の財政悪化国が同様の要求を打ち出すうえ、構造改革が遅れているイタリア、フランスで改革が一段と停滞する懸念もあるためだ。

ドイツの財界もこうした認識を共有しており、独銀行協会(BdB)のケマー専務理事は26日の声明で、新たな債務削減が王道だというのは幻想に過ぎないと指摘。債務削減が仮に受け入れられたとしても、構造改革を一貫して行わなければギリシャは数年後に再び苦境に陥ると警告した。

ケマー専務理事は、選挙戦では票を獲得するために現実味のない公約を打ち出すことがよくあるという事情を踏まえたうえで、「選挙戦モードを速やかに止めて」現実を直視するよう訴えている。独産業連盟(BDI)のケルバー専務理事も、ギリシャの構造改革は中間地点に達し、その最初の成果が見えるようになってきたと指摘。前政権の路線を継承するよう呼びかけた。

危機の飛び火リスクは小、量的緩和の効果で

チプラス新首相はユーロ圏にとどまる意向を表明している。ただ、EU側との立場は大きく隔たっており、両者が何らかの合意に至らなければギリシャは財政破たん、場合によってはいわゆる「グレグジット(ユーロ離脱)」に追い込まれることになる(グレグジットはギリシャを意味する‘グリース’と 出口を意味する‘イグジット’を組み合わせた造語)。

2010~13年にかけて深刻化した欧州債務危機はギリシャの財政危機が起点となった。このため同国の財政破たんないしグレグジットが他のユーロ加盟国に再び飛び火する懸念もある。

だが、ユーロの26日の終値は対ドルで1ユーロ=1.1244ドルとなり、前営業日に当たる23日の1.1198ドルを上回った。市場関係者はロイター通信に、為替相場にとってはギリシャの将来よりもユーロ圏と米国の金融政策の方が重要だと指摘。ギリシャ問題の影響は小さいとの見方を示した。

背景にはECBが22日に量的緩和を決定したことがある。ECBは今後、国債を大量に買い込むため、少なくともギリシャを除くユーロ加盟国が市場資金を調達できなくなる恐れはないのである。欧州債務危機の直撃を受けた国のうちスペイン、ポルトガル、アイルランドの3国で構造改革が奏功し状況が好転していることもあり、ギリシャの新政権が財政危機の飛び火リスクを材料にEUから譲歩を引き出すのは難しい状況だ。