2013/9/30

総合 –EUウオッチャー

独下院選でメルケル首相大勝、社会民主党との大連立模索

この記事の要約

22日に実施された独連邦議会(下院:定数630)選挙で、中道右派の与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が得票率を大幅に伸ばして第1党となり、メルケル首相の3選が確実となった。ただ、これまで連立を組んできた同じ中 […]

22日に実施された独連邦議会(下院:定数630)選挙で、中道右派の与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が得票率を大幅に伸ばして第1党となり、メルケル首相の3選が確実となった。ただ、これまで連立を組んできた同じ中道右派の自由民主党(FDP)は大敗し、議席をすべて失ったため、CDU/CSUは第2党の社会民主党(SPD)との大連立に向けた交渉を進める。

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CDUとCSUの得票率は41.5%と、前回(2009年)の33.8%から急増した。経済と雇用の安定を背景にメルケル首相が高い人気を維持。選挙戦で具体的な政策よりも同首相を前面に押し出したイメージ戦略を徹底したことが奏功した。    

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FDPの得票率は議席獲得に必要な5%を下回る4.8%にとどまった。同党が連邦議会で議席を失ったのは今回が初めて。前回の14.6%からは9.8ポイント急落している。

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FDPとCDU/CSUは政策や思想の面で距離が最も近く、長く最適のパートナーと見なされてきた。だが、09年に成立した両会派の政権(第2次メルケル政権)では、財政難で現実味の薄い大幅減税方針などをFDPがかたくなに押し通そうし、政権運営が停滞。これを受けてFDPの人気は急落し党首も交代したが、新たな党首となったレスラー経済相は求心力に欠けており、有権者の支持を取り戻すことができなかった。レスラー党首とブリューデルレ院内総務は責任を取ると明言しており、党の首脳陣は一新される見通しだ。

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SPDの得票率は過去最低となった前回の23.0%から25.7%に伸びたものの、目標とした30%には届かなかった。リーマンショックに端を発する金融経済危機への対策で高い手腕を発揮したシュタインブリュック前財務相を筆頭候補に担ぎ出し政権奪回を目指したが、メルケル首相率いるCDU/CSUの支持層を掘り崩すことができなかった。

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各党の獲得議席数はCDU/CSUが311、SPDが192、左翼党が76、緑の党が63。過半数ラインは316で、CDU/CSUは5議席下回っている。

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今後の焦点はCDU/CSUが主導する連立政権の樹立。SPDとの大連立が最有力視されている。SPDは27日に開いた党幹部会で、メルケル首相の呼びかけに応じて連立交渉に入ることを決めた。SPDが求める富裕層への増税をCDU/CSUが受け入れるかどうかが大きなポイントとなりそうだ。

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独選挙の結果は、EUにとっても大きな意味を持つ。債務危機に陥っているギリシャへの追加支援や、銀行同盟の第2段階となる銀行破綻処理の一元化について、大きな影響力を持つドイツが選挙を前に世論を気にして本音を出さず、調整が停滞していたためだ。

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ギリシャをめぐっては、EUと国際通貨基金(IMF)による総額2,400億ユーロの金融支援が2014年末で終了するが、まだ自力で資金を調達できる状況になく、向こう2年間で109億ユーロの資金不足に陥るとの試算をIMFが示している。このため第3次支援の必要性が浮上しているが、メルケル首相は世論が南欧支援に批判的なことから、これまで可否について明確な態度を示していなかった。SPDとの大連立が実現すれば、同党は選挙戦からギリシャ追加支援の必要性を訴えていたことから、実施に向けたEUの協議が開始される可能性がある。

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一方、銀行の破綻処理については、欧州委員会が最終決定権を持つという案をめぐって、ドイツが国内銀行の破綻処理に関する権限を手放すことに難色を示し、9月中旬に開かれたEU財務相会合の協議で決定が先送りされた。同問題についても、EU内では選挙終了によってドイツの態度が軟化するとの期待が出ている。

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ただ、破綻処理を統括機関に一元化する「単一破綻処理メカニズム(SRM)」と呼ばれる制度の運用を目標通りに15年1月に開始するためには、加盟国が年内に合意し、欧州議会が3月の解散より前に承認する必要がある。ドイツの連立交渉が長期化すれば協議が遅れ、スケジュールが狂う恐れがある。

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