2014/2/17

環境・通信・その他

排出量取引テコ入れで排出枠不足?景気回復で温暖化ガス増大

この記事の要約

EUは温暖化対策の柱と位置付ける排出量取引制度(EU-ETS)のテコ入れ策として、対象企業に配分する排出枠の供給を減らして排出権価格を下支えしようとしている。しかし、今年以降は緩やかな景気回復に伴い域内で生産活動が活発化 […]

EUは温暖化対策の柱と位置付ける排出量取引制度(EU-ETS)のテコ入れ策として、対象企業に配分する排出枠の供給を減らして排出権価格を下支えしようとしている。しかし、今年以降は緩やかな景気回復に伴い域内で生産活動が活発化するとみられることから、市場では今後、排出枠を購入する企業が増えて供給不足に陥るとの見方が出ている。

欧州委員会によると、EUではユーロ危機に伴う景気悪化で生産活動が停滞した結果、2012年末には排出枠の余剰分が累計21億トンに達した。こうした供給過剰により、06年に1トンあたり31ユーロを記録した排出権価格は昨年4月に一時3ユーロを割り込み、その後も5ユーロを下回る水準で推移していた。欧州委は排出枠の需給バランスを改善するため、EU-ETSの対象施設に無償配分する排出枠を13-20年は08-12年に比べて平均12%削減すると発表。さらに13-15年にオークションで有償配分する排出枠のうち、9億トン分の入札時期を16年以降に先送りする「バックローディング」構想を打ち出し、3月中旬にも同措置がスタートする見通しとなっている。市場は一連のテコ入れ策を好感し、ICEフューチャーズ・ヨーロッパ(ロンドン)では排出権価格が年初からこれまでに35%上昇した。

一方、ユーロ圏の域内総生産(GDP)は2年連続でマイナス成長となったが、欧州委はことし1.1%のプラス成長を見込んでいる。今後は企業活動の活発化に伴い温室効果ガス排出量の増加が予想され、ブルームバーグ通信によると、米投資銀行ゴールドマン・サックスはEU全体で16年までにおよそ1億トン分の排出枠が不足するとの予測を明らかにした。現在の取引価格で換算するとおよそ6億5,000万ユーロに上る。一方、スイスの大手金融グループUBSは排出枠の需給均衡により、来年までに排出権価格が現在の2倍以上にあたる1トンあたり15ユーロ程度まで上昇すると予想している。

こうしたなか、米化学大手ダウ・ケミカルの気候変動対策担当ディレクター、ラッセル・ミルズ氏はブルームバーグの取材に対し、同社では排出量の削減目標を達成するため20年まで排出枠を購入しなければならなくなるとの見通しを示し、今後は将来の供給不足に備えて事前に排出枠を購入したり、余剰分を売却せずに蓄える企業が増えると指摘した。また、独ハイデルベルクセメントのEU広報担当ディレクター、ロブ・ファン・デル・メール氏は、昨年までの8年間は余剰排出枠を売却して「莫大な利益」(具体的な金額は不明)を得ることができたが、17年以降は「状況が一変」して排出枠を購入しなければならない可能性が高いと述べた。さらにプラハに拠点を置くバーチューズ・エナジーの創業者でマネージングディレクターのヤン・フォーセク氏も、コンサルティングサービスを提供している「ほぼすべての製造業者」で20年までに排出枠が不足し、大半は「今後2~3年のうちに」排出枠を購入しなければならなくなると語っている。