欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/5/11

EU産業・貿易

欧州委がデジタル市場統合の重点政策発表、ICT規制改革など優先課題に

この記事の要約

欧州委員会は6日、デジタル単一市場の創設に向けてEUが取り組むべき重点政策をまとめた戦略文書を発表した。EUが成長戦略の柱と位置付ける高速インターネットを基盤とする経済活動(デジタル経済)を活性化させるため、2016年末 […]

欧州委員会は6日、デジタル単一市場の創設に向けてEUが取り組むべき重点政策をまとめた戦略文書を発表した。EUが成長戦略の柱と位置付ける高速インターネットを基盤とする経済活動(デジタル経済)を活性化させるため、2016年末までに情報通信技術(ICT)、メディア、著作権など幅広い分野で国ごと異なる規制や制度を見直し、国境を越えたオンライン取引やコンテンツ流通を妨げる障壁を取り除く。

欧州委によると、EU内では約3億1,500万人が毎日インターネットを利用しており、ほぼ半数のEU市民がオンラインショッピングを利用しているが、昨年1年間に域内の他の国の事業者から商品を購入した消費者はこのうち15%にとどまった。一方、域内の複数の国で事業展開する中小企業は全体の7%にとどまっている。欧州委は国ごとに異なる規制が国境をまたいだオンラインサービスを妨げる障壁になっていると指摘し、こうした障壁を取り除いてデジタル市場の統合が実現した場合の経済効果は年間4,150億ユーロに上ると試算している。

欧州委はデジタル市場の統合に向けた主要政策として、1)消費者と事業者の双方がオンラインサービスにアクセスしやすくする 2)デジタルネットワークおよび革新的サービスのための適切で平等な競争条件の確立 3)デジタル経済の潜在成長力の最大化――という3つの柱を提示。それらを実現するための具体的な取り組みとして16項目の優先課題を掲げ、それぞれ達成期限を定めている。

まず、最重要と位置付けるオンラインサービスへのアクセス改善に向けた取り組みとして、欧州委は6日付で競争法に基づく電子商取引市場の調査を開始したことを明らかにした。小売業者が地理的制限(geoblocking)を設けて国外の消費者がサービスを利用できないようにしたり、居住する国のサイトに誘導して同じ商品を高い値段で販売するなど、一部で国境をまたいだ取引を制限する動きがみられることから、すべての加盟国で実態調査を行い、デジタル経済の成長を阻害する障壁を特定する。近く幅広い業種のメーカー、卸業者、小売業者、業界団体などに情報提供を要請し、16年半ばに中間報告、17年第1四半期に最終報告をまとめる。

欧州委はこのほか◇国境をまたいだ電子商取引を簡素化するためのルール作り(15年末まで)◇国境をまたぐ配送サービスの効率化と料金引き下げ(16年末まで)◇国境を越えたコンテンツ流通を阻害する原因となっている著作権制度の改革に向けた法案策定(15年末まで)――などを優先課題として挙げている。

一方、デジタルネットワークの基盤整備に関しては◇EU全体での効率的な周波数の管理・割当てや、高速ブロードバンドやモバイル通信網の拡充に向けた投資奨励策などを含む通信規制改革案の策定(16年末まで)◇ネット上における個人情報保護ルールの見直し(同)――などに取り組む方針を示している。

欧州委のユンケル委員長は「成長戦略の柱としてデジタル単一市場の創設を約束してからちょうど1年が経過し、EUは本日ここに、欧州における将来のデジタル社会の土台を築いた。一連の政策を通じて域内で生活するすべての消費者が最大の恩恵を受け、あらゆる企業が市場に参入できるようになることを期待する」とコメントしている。