2011/11/16

総合・マクロ

バルト海天然ガスパイプライン稼働、ウクライナに痛手も

この記事の要約

ロシアとドイツを直結するバルト海の天然ガス海底パイプライン「ノルド・ストリーム」が8日、稼働した。ドイツ北東部のルプミンで開かれた式典にはメドベージェフ露大統領、メルケル独首相、フィヨン仏首相、ルッテ蘭首相、欧州連合(E […]

ロシアとドイツを直結するバルト海の天然ガス海底パイプライン「ノルド・ストリーム」が8日、稼働した。ドイツ北東部のルプミンで開かれた式典にはメドベージェフ露大統領、メルケル独首相、フィヨン仏首相、ルッテ蘭首相、欧州連合(EU)のエッティンガー・エネルギー担当委員が出席し、ロシアと欧州の良好な提携関係を強調した。しかし、これまで欧州に対するロシア産ガスの輸出経路となってきたウクライナやポーランドは、ノルド・ストリームを国益侵害ととらえており、欧州諸国の間に亀裂が走るとの懸念が浮上している。

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ノルド・ストリームの年間輸送能力は27.5億立方メートル。来年に第2パイプラインが完工すると55億立方メートルに倍増する。これはドイツとフランス、オランダ、英国が2010年に消費したロシア産ガスの量に匹敵する。

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ノルド・ストリーム計画はもともと、欧州がロシアからのガス調達を増やすことを見込んで、新たな輸送能力を整備することを目的としていた。しかし、金融危機で消費が縮小したほか、液化天然ガス(LNG)による調達が拡大。ロシアからの輸入量が頭打ちになっていることから、現在ではウクライナやベラルーシ経由のガスが部分的にノルド・ストリームに振り向けられるとみられている。

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ロシアの対欧ガス輸出のうち、これまではウクライナ経由での供給が80%を占めてきた。なかでもチェコとスロバキアに対するガス輸出はすべて同国経由。ガス市場筋によると、両国の需要の最大3分の2までをノルド・ストリームを通じて供給できるという。

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米格付け大手のフィッチは、ウクライナ国営ナフトガスのガス輸送量および売上高が約20%減少するとみており、同社の信用格付けを債務不履行(デフォルト)ランクに引き下げる可能性を指摘する。

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ロシアはガス価格をめぐって経由国とたびたび対立。ウクライナとの交渉が難航した2009年には厳冬の最中に同国へのガス輸送をストップした。その結果、欧州への供給が一時滞る事態となった。

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このため、欧州はノルド・ストリームの稼働を安定供給の確保に向けた大きな一歩ととらえている。また、ロシアにとっては、経由国への依存を弱め、政治的交渉力を強める狙いがある。

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ただ、EUの中でもノルド・ストリームに向けるまなざしは異なる。ノルド・ストリームの社長を務めるシュレーダー前独首相は、ノルド・ストリーム計画に対する反発や警戒を「過去の話」と説明している。

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しかし、ロシア産ガスへの依存度が高く、ロシア産ガスを欧州に供給するための経由国でもあるポーランドにとっては、ガスをめぐるロシアとの緊張関係はまさに目下の問題。ポーランドのガス独占体PGNiGは7日、ガスプロムにガス価格の引き下げを求めて調停申請手続きを行ったばかりだ。

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過去には2006年にポーランドの防衛相が、ポーランド分割を定めた1939年の独ソ不可侵条約にノルド・ストリーム計画をたとえるなど強い反発が出ていた。

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ノルド・ストリームはロシアのヴィボルグとドイツのルプミンを結ぶ全長1,224キロのバルト海海底パイプライン。総工費は73億ユーロに上る。プロジェクトを実行する運営会社ノルド・ストリームには、ガスプロムが51%、ドイツのヴィンタースハルとエーオンが各15.5%、オランダのガスニーとフランスのGDFスエズが各9%出資する。

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