欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/5/4

EUその他

排出量取引制度改革案で加盟国が合意、チェコが容認に転換

この記事の要約

EU加盟国は4月29日に開いた大使級会合でEU排出量取引制度(EU-ETS)の改革案について協議し、2019年1月1日付で排出権価格を下支えするための「市場安定化準備制度(MSR)」を導入することで合意した。ポーランドを […]

EU加盟国は4月29日に開いた大使級会合でEU排出量取引制度(EU-ETS)の改革案について協議し、2019年1月1日付で排出権価格を下支えするための「市場安定化準備制度(MSR)」を導入することで合意した。ポーランドを中心とする東欧諸国の強い反発で意見調整が難航していたが、チェコが同制度の早期導入を容認する方針に転じたことで合意に至った。改革案は5日の欧州委員会、欧州議会、加盟国の代表による3者協議で承認される見通しで、早ければ7月の欧州議会本会議で採択される可能性がある。

EU-ETSでは段階的にオークションによる排出枠の有償割当を拡大し、27年までに全面移行することが決まっている。しかし、ユーロ危機に伴う景気低迷で企業の生産活動が停滞し、排出枠に膨大な余剰が生じた結果、排出権価格はピークだった08年の1トン当たり約30ユーロから一時は2ユーロ台まで下落。低炭素技術への投資を促進するには少なくとも1トン当たり20ユーロ前後の水準を維持する必要があるとされるが、排出権価格は現在も7ユーロ台で推移している。

こうしたなか欧州委は昨年1月、30年に向けた気候変動・エネルギー政策の枠組みをまとめ、同年までに温室効果ガス排出量を1990年比で40%削減するなどの目標を発表。EU-ETSの第4フェーズがスタートする21年以降、市場安定化準備制度を導入して排出枠の需給バランスを図る構想を打ち出した。これは経済活動の停滞に伴って発生した余剰排出枠を一旦リザーブ(積み立て)しておき、需給がひっ迫した場面で取り崩して排出権価格を安定させる仕組みだ。

欧州委の提案に対し、英国、フランス、ドイツなどは低炭素社会への転換を推進するため、市場安定化準備制度の導入を17年に早めるべきだと主張。一方、依然として石炭への依存度が高いポーランドなどは導入時期を21年以降とするよう求めており、意見対立が続いていた。

欧州炭素市場に関する調査・分析を専門に手掛けるIcis Tschachのディレクター、ヤン・フロムマイヤー氏は、チェコによる「180度の方向転換」はEU-ETSにとって「決定的な重要性を持つ」と強調。今回の合意によって制度改革の方向性は「95%定まった」と指摘する。Icisは有償配分する排出枠の入札を一部延期する「バックローディング」など他の施策と組み合わせることで、排出権価格は30年までに40ユーロ前後まで上昇すると予測している。