欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2014/12/1

総合 – 欧州経済ニュース

欧州委が仏・伊の予算案を問題視、制裁発動は見送り

この記事の要約

欧州委員会は11月28日、ユーロ参加国の2015年予算案の最終審査結果を公表し、7カ国が「EUの財政規律に違反する恐れがある」との判断を示した。うちフランス、イタリア、ベルギーで大きな問題があると指摘したが、制裁発動は見 […]

欧州委員会は11月28日、ユーロ参加国の2015年予算案の最終審査結果を公表し、7カ国が「EUの財政規律に違反する恐れがある」との判断を示した。うちフランス、イタリア、ベルギーで大きな問題があると指摘したが、制裁発動は見送り、財政改善に向けた取り組みの強化を求めるにとどめた。これら3カ国については、2015年3月まで猶予を与えて財政改革を促し、その結果に基づいて制裁を含めた対応を決める。

EUはギリシャを発端とする債務危機がユーロ圏を大きく揺るがした反省を踏まえ、ユーロ参加国に対する財政監視強化策として、各国の予算案を欧州委が事前に審査する制度を2013年に導入した。これに基づき、ユーロ圏各国は次年度予算案を議会の承認に先立って毎年10月15日までに欧州委に提出し、審査を受けることが求められる。欧州委は予算案がEUの財政規律に照らして問題があると判断した場合は承認せず、修正を勧告する。

今回の審査は、債務危機でEUから金融支援を受け、財政規律とは別の枠組みで財政再建を求められているギリシャ、キプロスを除く16カ国が対象となった。欧州委はドイツ、アイルランド、オランダ、ルクセンブルク、スロバキアの5カ国について、予算案が財政規律を「順守」していると認定。フィンランド、エストニア、ラトビア、スロベニアは「概ね順守」とした。「規律違反の恐れがある」とされたのは、フランス、イタリア、スペイン、ベルギー、ポルトガル、オーストリア、マルタの7カ国。

EUの財政規律では、加盟国は単年の財政赤字を国内総生産(GDP)比3%以内に抑えることなどを義務付けられている。欧州委がとくに問題視しているのはフランスとイタリア。フランスは2007年から違反しており、15年までに許容範囲内に収めることを求められているが、同国政府が提出した15年予算案では、同年の赤字はGDP比4.3%と、財政規律で上限となっている3%を大きく超過。同年に赤字を許容範囲内に収めるという約束に反する。イタリアは財政赤字が上限内に収まっているものの、累積債務がGDP比133%と、上限の60%を大きく超え、ギリシャに次ぐ高水準となっている。同国は是正を求められているが、予算案は不十分な内容だった。

EUの大国である両国の財政規律軽視を容認すると、厳しい経済環境下でも財政均衡化の努力を進める他の加盟国にしめしが付かない。このため、欧州委がどのように対応するか注目されていたが、現時点での制裁など厳しい措置の発動を控え、来年3月初めまで決定を保留することになった。両国政府が先ごろユンケル委員長に書簡を送り、追加の財政再建策導入を約束したことや、域内の景気浮揚に向けて財政規律の柔軟的な運用を求める声が域内外で強まっていることが背景にある。

ただ、モスコビシ委員(経済・金融担当)は記者会見で、フランスとイタリアの財政改善が遅れていることに苦言を呈した上で、「欧州委は責任を全うすることに躊躇しない」と述べ、3月に行う再検証で両国の取組みが不十分と判断した場合は制裁発動を辞さない構えを示した。

EUでは財政規律違反国にGDPの0.5%に相当する制裁金を科すという規定がある。欧州の主要メディアは、イタリアは欧州委が重視する単年の財政赤字が許容範囲内にあることから制裁を科される恐れは小さい一方で、フランスは当初13年となっていた赤字是正期限を15年まで延長された経緯があることから、欧州委が度重なる約束違反を容認せず、制裁発動に踏み切る可能性があると報じている。