欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/2/9

総合 – 欧州経済ニュース

ECBがギリシャ国債の特例措置撤廃、反緊縮の新政権に圧力

この記事の要約

欧州中央銀行(ECB)は4日、ギリシャの銀行への資金供給に際して、信用力が低いギリシャ国債を担保として受け入れる特例措置を11日に撤廃すると発表した。財政緊縮の放棄を掲げ、EUなどによる金融支援の枠組みの見直しを求める新 […]

欧州中央銀行(ECB)は4日、ギリシャの銀行への資金供給に際して、信用力が低いギリシャ国債を担保として受け入れる特例措置を11日に撤廃すると発表した。財政緊縮の放棄を掲げ、EUなどによる金融支援の枠組みの見直しを求める新政権に圧力を加えた格好となる。ギリシャ政府は11日に開かれるユーロ圏臨時財務相会合で債務再編などの見直しを正式に要請する見通しだが、ドイツなども枠組みの大幅な修正に反対しており、厳しい立場に追い込まれてきた。

ギリシャの国債は投機的水準に格付けされているため、本来は担保として認められない。しかし、ECBはギリシャの銀行への低利資金供給で特例的に受け入れ、信用不安で厳しい状況にある銀行を支えてきた。同措置の中止によって銀行は資金繰りが厳しくなる。

1月末に発足したチプラス首相率いるギリシャの新政権は当初、債務危機に際してEUと国際通貨基金(IMF)から受けた緊急金融支援の見返りとして約束していた財政再建計画を白紙化し、財政緊縮策を放棄するほか、債務の減免も求めるという強硬な姿勢を打ち出していた。

しかし、大きな反発を浴び、実現が困難となったことから、より現実的な路線に転換。バロファキス財務相は2日、英フィナンシャル・タイムズに対して、総額3,150億ユーロに上る対外債務削減の要求を取り下げ、代わりに債務の借り換えを求める意向を表明した。具体的にはEUに対する債務は名目経済成長率に金利が連動する債券に借り換え、ECBが保有するギリシャ国債については償還期限のない永久債に借り換えるという内容だ。また、緊縮策の放棄についても譲歩し、富裕層への課税強化、プライマリー・バランス(基礎的財政収支)の黒字化など改革を進める方針も打ち出した。

政府は2日から5日にかけて独、仏、伊、英の首脳、財務相や欧州委員会のユンケル委員長、ECBのドラギ総裁らと会談し、支援の枠組みの見直しへの支持を求めた。チプラス首相はユンケル委員長との協議で、脱税対策の強化などを柱とする財政改善4カ年計画を共同でまとめることや、2月末となっているEUの支援期限の一時的な延長について話し合ったとされる。チプラス首相は同日の記者会見で、「EUとは相互に受け入れ可能な解決策を見出せると楽観している」と語った。同じく財政が悪化しているフランス、イタリアは、緊縮から成長路線への転換などで理解を示し、一部の見直しに応じる姿勢を示した。

しかし、ドイツのショイブレ財務相はバロファキス財務相との会談で、既存の枠組みに沿った財政再建、債務処理の順守を求めて譲らなかった。同財務相は会談後、「意見が一致していないことでは合意した」と皮肉交じりに語った。また、ECBが特例措置停止を発表したのは、ドラギ総裁がバロファキス財務相と会談した直後で、ギリシャの要求をきっぱりとはね付けた形だ。ECBは声明で、同措置について「(金融支援の)枠組みの見直しで思い通りの結論に至るのは難しいため」と説明した。

EUは12日に非公式首脳会議を開き、ギリシャ問題について協議する。ユーロ圏はこれに先立つ11日に財務相会合を緊急開催し、地ならしを行う。ギリシャの新政権はこの場で初めて債務再編案を含む支援の枠組み見直しを公式に要請するとみられるが、同意を取り付けるのは極めて難しい見通しだ。国内銀行がECBの資金繰り支援縮小で厳しい状況に直面する中、同問題の長期化は避けざるを得ず、一層の譲歩を迫られるとの見方が多い。ただ、与党・急進左派連合(SYRIZA)が総選挙に際して看板政策に掲げた緊縮策放棄が大きく後退すると世論の猛反発を招くのは必至で、新政権は早くも正念場に立たされている。