2013/10/16

コーヒーブレイク

地獄からの証言~ベラルーシ

この記事の要約

ドイツ・フランクフルト国際書籍見本市が閉幕した13日、毎年恒例となっている「ドイツ書籍協会平和賞」の授与式が市内のパウルス教会で行われた。今年の受賞者はベラルーシのジャーナリストで作家のスヴェトラーナ・アレクシェービッチ […]

ドイツ・フランクフルト国際書籍見本市が閉幕した13日、毎年恒例となっている「ドイツ書籍協会平和賞」の授与式が市内のパウルス教会で行われた。今年の受賞者はベラルーシのジャーナリストで作家のスヴェトラーナ・アレクシェービッチさん(65)。ソ連、そして崩壊後の旧ソ連諸国で激動の歴史を生きてきた名もない人々にインタビューし、その体験をまとめてきた。

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いままで誰にも話さなかった、内に秘めたエピソードは政治体制にかかわらず、誰にでもあるものだ。アレクシェービッチさんは心から耳を傾けることで、そんな話を何千と聞いてきた。公で宣伝される華々しい「歴史」のかげにある一人一人の思いを著作にまとめたことで、ルカシェンコ大統領の強権政治下にあるベラルーシでは出版が禁止されているほか、電話が盗聴されるなど大きな妨害にあっている。10年近く国外で暮らしたが、おととしにはベラルーシに帰国。「仕事を続けるには人々の近くにいないと」と理由を語る。

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これまでに5冊の著作を発表している。第一作の『戦争は女の顔をしていない』(1984年)では、第二次世界大戦でドイツと戦った女性兵士やレジスタンスの声を集めた。第二作の『最後の生き証人(邦題:ボタン穴から見た戦争―白ロシアの子どもたちの証言)』(1985年)では同じ戦争を子どもの目から見つめた。

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1989年の『亜鉛の少年たち(邦題:アフガン帰還兵の証言)』の書名は、アフガン戦争で戦死した若者の遺体(の一部)が亜鉛の棺に収められて帰ってきたことに由来する。英雄的な報道では全く触れられない、帰還兵や遺族の真実を記録した。これがソ連軍に対する侮辱だとして、アレクシェービッチさんは告訴され、ジャーナリストとしての職を奪われた。

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1996年の『チェルノブイリの祈り』では、1986年の原発事故の関係者の話を聞き取った。防護服も着ずに「ただの火事だ」と言われて原発に向かった消防隊員の妻は、病院で瀕死の夫への面会を断られる。「旦那さんはもう人間じゃないのよ。原子炉なの」と看護士に告げられたが、それでも隠れて死んでいく夫を見送る。福島原発事故を見つめる日本人には25年以上も前のことと片付けられない。

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アレクシェービッチさんはソ連崩壊後の生活にも目を向ける。1993年には『死に魅せられた人々―ソ連崩壊と自殺者の記録』を発表。倒壊した社会主義体制の後を追うように命を絶った人の遺族を訪ねた。今年発表の新作『セカンドハンドの時代』では、ソ連崩壊20周年を過ぎた旧ソ連諸国で生きる人々の夢と失望を描き出した。

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アレクシェービッチさんは受賞式で、「いままで5冊の本を発表してきたが、実際は一つの作品を書き続けているようなものです。それはロシア・ソ連の記録なのです」と話した。公に出てくるような「時代の証人」ではなく、こちらから「地獄に赴いて」聞き取った証言。その重みを受け止める覚悟をして、著作を手にとってみたい。

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