欧州経済の中心地ドイツに特化した
最新の経済・産業ニュース・企業情報をお届け!

2012/5/30

経済産業情報

超高感度で爆発物探知、自然のメカニズムをヒントにセンサー開発

この記事の要約

爆発物由来の物質を超高感度で検出するナノセンサーの開発に、サンルイ仏独共同研究所(ISL)の研究チームが成功した。フェロモンを感知する昆虫の触角をモデルとしたもので、爆薬の主成分であるトリニトロトルエン(TNT)を1pp […]

爆発物由来の物質を超高感度で検出するナノセンサーの開発に、サンルイ仏独共同研究所(ISL)の研究チームが成功した。フェロモンを感知する昆虫の触角をモデルとしたもので、爆薬の主成分であるトリニトロトルエン(TNT)を1ppt(1兆分の1)以下という極微量の濃度で検知できたという。

\

2001年の同時多発テロ以降、バッグの中などに隠された爆発物を発見する爆発物検知技術の重要性が高まっている。これまでにもさまざまなセンサーが考案されたが、効率や精度の点で訓練された犬の嗅覚に劣る。

\

ISLの研究チームは、マイクロカンチレバーを用いたセンサーの開発に着手した。カンチレバーは「片持ち梁」の意で、片側が固定された板ばね状構造のこと。マイクロカンチレバーは主に原子間力顕微鏡の探針に用いられているが、表面処理を施して標的物質だけを特異的に吸着させ質量変化によるばねの発振周波数の変化をとらえることで、超高感度メカニカルセンサーとして応用できる。このため、実用化への関心が急速に高まっているが、室温では爆発物から出る揮発性ガスの量はごく微量のため、精確に検知することは極めて難しい。

\

ISLのチームはこうした事情を踏まえ、マイクロカンチレバーの感度をさらに引き上げる表面構造として、鱗翅目(蝶・蛾)の嗅感覚子に注目した。フェロモン研究のモデル生物として知られるカイコガのオスは、2キロメートル以上離れた場所にいるメスの出すフェロモンをキャッチする極めて優れた嗅覚をもつ。カイコガの嗅感覚子は、孔のあいた(ポーラス状)繊毛状の構造をしており、ISLのチームもこの構造をヒントにマイクロアンチレバーの表面構造を模索。試行錯誤の末、ニトロ基と結合しやすい酸化チタンのナノチューブ(長さ1.7マイクロメートル、外径100ナノメートル、壁の厚さ20ナノメートル)をブラシ状に3次元配列する構造にたどり着いた。

\

微量のTNT結晶を温めて揮発物質を放出させる実験では、1ppt以下の濃度で3分以内に検知できることが確認された。

\

研究成果は『Angewandte Chemie』誌に掲載された。

\