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2015/3/11

総合 - ドイツ経済ニュース

メルケル首相が7年ぶりの訪日、両国間の貿易・投資の拡大に向け合意

この記事の要約

ドイツのアンゲラ・メルケル首相が9、10の両日、日本を訪問した。訪日は2008年の北海道洞爺湖サミット以来で、およそ7年ぶり。6月上旬に独南部のエルマウ城で主催する第41回主要国首脳会議の準備作業の一環で、2月にも米国と […]

ドイツのアンゲラ・メルケル首相が9、10の両日、日本を訪問した。訪日は2008年の北海道洞爺湖サミット以来で、およそ7年ぶり。6月上旬に独南部のエルマウ城で主催する第41回主要国首脳会議の準備作業の一環で、2月にも米国とカナダを訪れている。今回の訪日では安倍晋三首相との間で話し合われた安全保障、エネルギー政策、経済協力、日EU経済連携協定(EPA)などのほか、両国の外交関係には直接かかわりのない「過去との取り組み」に関するメルケル首相の発言に注目が集まった。

日本とEUはEPA締結に向けた交渉を2013年に開始した。メルケル首相は年内合意を目指しており、今回「通商、投資、共同のイノベーションに対する既存の障壁を速やかに除去しなければならない」と述べ、早期合意に意欲を示した。障壁の一例として日本とEUの自動車排ガス規制を指摘。両者にはわずかな相違があるために、二重の開発・テスト・認証・製造といった無駄が発生しているとして、EPA締結によりそれぞれの規格を相互承認すればそうした弊害をなくすことができると訴えた。

同首相はまた、朝日新聞とベルリン日独センターが共催した講演会でドイツが進める原発廃止政策に言及。「(福島原発事故が)日本という高度な技術水準を持つ国」で起きたことにショックを受けて「原子力の平和利用に賛成」の立場から反対の立場に変わったと述べた。安倍首相にも原発廃止を勧めたが、安倍首相は二酸化炭素(CO2)排出削減や低廉で安定的なエネルギー供給を維持するためには原発が欠かせないとの立場を示した。

ジェトロと在日ドイツ商工会議所は両首相の立会いのもとで、両国間の貿易・投資の拡大に向けた連携強化の覚書(MOU)を締結した。日独双方向での投資支援のほか、両国企業間の協力促進が主な狙いだ。

日本とドイツの企業は競合関係にある一方で、ウインウインの協力関係も強めている。日本の中小企業はグローバル展開で後れを取っていることから、グローバル化が進んだドイツの中小企業と連携すれば、双方にとってメリットが大きいとみている。

投資銀行家の情報として『ハンデルスブラット』紙が報じたところによると、独企業の買収を模索する日系企業と日本企業の買収を模索するドイツ企業が増えているという。

今回のMOUでは協力の方向性・産業分野として、◇エネルギーとモビリティー◇イノベーション◇インダストリー4.0/スマートプロダクション◇サイバーセキュリティーを含む情報通信技術(ICT)◇ヘルスケア◇見本市の活用――も取り決められた。インダストリー4.0については日本機械工業連合会(JMF)とドイツ機械工業連盟(VDMA)が3月上旬、情報交換を強化することで合意しており、両国の協力関係は強まりそうだ。

歴史問題で間接的なメッセージ

メルケル首相の訪日でドイツのメディアが最も注目したのは歴史認識をめぐる問題だ。背景には安倍政権の成立後、周辺諸国に対する侵略や植民地支配の問題を軽視する傾向が日本で強まっていることへの懸念がある。

同首相は講演会の質疑応答で「欧州の経験を踏まえて、東アジアの国家と国民が、隣国同士の関係改善と和解を進める上で、もっとも大事なことはなんでしょうか」との質問に対し「アジア地域にアドバイスをする立場にはない」と直接の回答を避けたものの、戦後ドイツの取り組みを説明。ドイツに侵略されたフランスの寛容な振る舞いのほか、「ドイツが過去ときちんと向き合った」ことが和解の実現で重要だったと述べ、侵略や蛮行への反省なしに和解はあり得ないとの認識を示した。

従軍慰安婦問題の誤報で右派の集中砲火を浴びる朝日新聞主催の講演会を引き受けたのはメルケル首相のメッセージだ、と独メディアは口をそろえて報じている。保守系高級紙『フランクフルター・アルゲマイネ』は「(安倍政権の)歴史修正主義がこの国(日本)の国際的な孤立につながるリスクを日本人のほとんどは理解していない」と断定したうえで、メルケル首相の訪日は重要だったとの見方を示した。