欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/1/26

EUその他

排出量取引制度改革に向けた協議が難航、市場安定化準備制の導入時期めぐり

この記事の要約

欧州議会産業委員会は22日、EUが地球温暖化対策の柱と位置付ける排出量取引制度(EU-ETS)の改革案について採決を行ったが、排出権価格を下支えするための「市場安定化準備制度(Market Stabilization R […]

欧州議会産業委員会は22日、EUが地球温暖化対策の柱と位置付ける排出量取引制度(EU-ETS)の改革案について採決を行ったが、排出権価格を下支えするための「市場安定化準備制度(Market Stabilization Reserve)」の導入時期について意見が分かれ、合意形成に至らなかった。ただ、2月には環境委員会での採決が予定されており、ここでは同制度の導入を欧州委員会が提案している2021年から17年に前倒しする案が承認されるとの見方が出ている。

EU-ETSでは第3期間(2013-20年)の初年度から段階的にオークションによる排出枠の有償割当を拡大し、27年までに全面移行することが決まっている。しかし、ユーロ危機に伴う景気低迷で企業の生産活動が停滞し、排出枠に膨大な余剰が生じた結果、排出権価格はピークだった08年の1トン当たり約30ユーロから一時は2ユーロ台まで落ち込み、その後も7ユーロ台で推移している。昨年3月以降は「バックローディング(排出枠の入札延期)」と呼ばれる措置が実施され、4億トン分の入札が17年以降に延期されたが、長期的にみると排出権価格は20年までに1トン当たり4ユーロ程度まで下落するとの見方が出ている。

こうしたなか、欧州委は昨年1月、2030年に向けた気候変動・エネルギー政策の枠組みをまとめ、同年までに温室効果ガス排出量を1990年比で40%削減するなどの目標を発表。具体策の1つとして、EU-ETSの第4段階(21年以降)から市場安定化準備制度を導入して排出枠の需給バランスを図る構想を打ち出した。これは経済活動の停滞に伴って発生した余剰排出枠を一旦リザーブ(積み立て)しておき、需給がひっ迫した場面で取り崩して価格を安定化させる仕組み。欧州委の提案に対し、英国、フランス、ドイツなどは低炭素社会への転換を推進するため、準備制度の導入を17年に早めるべきだと主張している。

産業委ではまず、導入時期を17年とする修正案について採決が行われ、2票差で否決された。次に、欧州委が提案する21年からの導入案が1票差で可決されたが、賛否の差が小さすぎるとの理由で採決結果は無効となった。

欧州議会で強い影響力を持つ産業委が排出権価格を下支えするための施策で合意できなかったことを受け、排出権価格は一時、前日比8%以上下落した。