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2014/12/3

ゲシェフトフューラーの豆知識

従業員に所属組合を聞くのは違憲か

この記事の要約

すべての人は労働・経済条件の維持・改善に向けて組合などの結社を設立することができる。これは基本法(憲法)9条3項に明記された権利であり、この権利を制限したり侵害しようと試みることは違憲となる。では、どの組合に所属している […]

すべての人は労働・経済条件の維持・改善に向けて組合などの結社を設立することができる。これは基本法(憲法)9条3項に明記された権利であり、この権利を制限したり侵害しようと試みることは違憲となる。では、どの組合に所属しているかを雇用主が被用者に質問することは、この規定に抵触するのだろうか。この問題をめぐる係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が11月18日に判決(訴訟番号:1 AZR 257/13)を下したので、ここで取り上げてみる。

裁判は鉄道機関士労組GDLがミュンヘン市公社を相手取って起こしたもの。

同公社が所属するバイエルン市町村雇用者団体(KAVバイエルン)は2006年、GDLが所属する労組連合dbbタリフウニオン(dbb Tarifunion)、およびサービス労組Verdiとの間でそれぞれ同内容の労使協定を締結した。同協定の失効後、VerdiはKAVバイエルンと新協定を締結したものの、dbbタリフウニオンは労使交渉の決裂を宣言。ストライキ入りの是非を問う組合員投票の実施方針を2010年8月25日に明らかにした。

ミュンヘン市公社はこれを受けて、職員にアンケート用紙を送付し、GDLに所属しているかどうかの回答を求めた。Verdi所属の職員に新協定に基づく給与を支給するためには、誰がVerdiに属し、誰がGDLに属するかを知る必要があったためである(GDL所属の職員にはVerdiとの間で取り決めた協定が適用されない)。

これに対しGDLは、被用者に所属組合を雇用主が質問することを基本法9条3項の規定に抵触するとしてその差し止めを求める裁判を起こした。

1審は原告の全面勝訴を言い渡し、2審のヘッセン州労働裁判所も部分勝訴を言い渡した。2審の裁判官は判決理由で、雇用主であるミュンヘン市公社が争議状態にあるGDLに所属しているかどうかを質問することは違憲だとの判断を示した。その一方で、争議状態にないVerdiに所属しているかについてであれば被用者に質問することができると指摘。雇用主が所属先の組合を被用者に質問すること自体が憲法に抵触するとしたGDLの訴えについては退けた。

最終審のBAGもGDLへの所属を質問した被告の行為は違憲だとの判断を示した。判決理由で裁判官は、どの職員がGDLに属しているかを雇用主が把握できれば、GDL所属職員の数が分かるためストへの対抗策を立てやすくなり、ストを通して労働環境の改善を目指すGDLの権利が侵害されると言い渡した。

裁判官はその一方で、GDLは今回の訴訟でミュンヘン市公社が実施した質問の禁止だけでなく、考えられ得るあらゆるケースで雇用主による所属組合の質問を禁止するよう要求したと指摘。この訴えに従うことは不法行為(他人の権利・利益を違法に侵害する行為)に当たるとして、GDLの訴えをすべて棄却した。つまり、ミュンヘン市公社が実施したのとは違った方法で行う所属組合に関する質問も違憲として一律禁止することは雇用主の権利を不当に侵害することになると判断したわけである。