欧州経済の中心地ドイツに特化した
最新の経済・産業ニュース・企業情報をお届け!

2010/5/12

総合 - ドイツ経済ニュース

州議選で国政与党が大敗、メルケル政権は上院で過半数割れに

この記事の要約

ドイツ最大の州ノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)で9日、州議会選挙が行われ、即日開票の結果、同州の与党である中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)と自由民主党(FDP)は過半数議席を失う大敗を喫した。国政レベルで […]

ドイツ最大の州ノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)で9日、州議会選挙が行われ、即日開票の結果、同州の与党である中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)と自由民主党(FDP)は過半数議席を失う大敗を喫した。国政レベルでも与党を形成する両党に対する有権者の厳しい審判が下された格好。今回の選挙の結果、メルケル独政権は16州の政府代表で構成される連邦参議院(上院)でも過半数票を失うことが確実となっており、今後は難しい政権運営が予想される。ギリシャ財政危機が他のユーロ加盟国に波及しかねないなど国政は難しい局面を迎えており、経済界からは立法手続きが滞り危機に迅速に対応できなくなることへの懸念が出ている。

\

最大政党CDUの得票率は2005年に行われた前回選挙の44.8%から34.6%へと10ポイント以上、落ち込んだ。連立パートナーのFDPは同0.5ポイント増の6.7%とやや上昇したものの、約8カ月前に行われた連邦議会選挙(得票率14.9%)からは大幅に後退しており、有権者から「ノー」の審判を受けた格好だ。FDPのヴェスターヴェレ党首(連邦政府の外相)は開票開始後の会見で「この結果は国政与党への警告だ」と発言。連邦政府の政権運営が国民に支持されていないことを認めた。(グラフを参照)

\

CDUとFDPが得票率を落とした大きな原因の1つは、国政レベルで与党の足並みが乱れていることだ。両党は本来、政策や思想の面で距離が最も近く、最適のパートナーとされるが、メルケル政権では財政難で現実味の薄い大幅減税方針などをFDPがかたくなに押し通そうし、与党内の不協和音が強まっている。FDPは野党に下っていた期間が10年以上と長いこともあり、現実を踏まえてうまく妥協する駆け引き能力が今のところ低い。

\

与党の退潮は野党にとっては大きな恩恵で、特に緑の党は得票率を前回の6.2%から12.1%へと倍増させた。急進左派の左翼党も5.6%と議席獲得に必要な5%を突破。同州で初めて議会進出を果たした。

\

中道左派の大政党・社会民主党(SPD)は前回の37.1%から34.5%へと落としたものの、昨年秋の連邦議会選挙(得票率28.5%)からは大幅に伸ばしている。国政レベルで野党となり、同党凋落の原因となっていた構造改革路線に距離を置きだしたことがプラスに働いたとみられる。

\

\

SPDは緑の党・FDPと政権協議の意向

\

\

今回の選挙の結果、NRW州議会の新たな議席配分はCDUとSPDがそれぞれ67、緑の党が23、FDPが13、左翼党が11となった。総数は181で、安定した政権運営には91以上が必要となる。

\

政権協議の中心となるSPDは緑の党との連立を最優先する意向を表明してきた。だが、両党の議席数は計90議席にとどまったため、SPDのハンネローレ・クラフト首相候補は11日、FDPも含めた3党で協議を行う考えを示した。

\

これに対しFDPのNRW州委員長は、SPDと緑の党が左翼党との連立の可能性を明確に否定すれば政権協議に応じる考えを示唆。SPD、緑の党、FDPの3党からなる「信号政権(3党のシンボルカラーである赤・緑・黄をもじった表現)」の樹立に対するこれまでの拒否的な態度を緩和した。政権交渉では環境・エネルギーや経済政策で距離の大きい緑の党とFDPが歩み寄れるかどうかが最大のポイントとなる。

\

信号政権が実現しない場合はSPDとCDUの2大政党からなる大連立政権が選択肢として浮上してくる。

\

大連立政権では通常、得票率が高い党が首相を排出する。ただ、SPDのクラフト首相候補は同党の得票率がCDUをやや下回ったにもかかわらず、(1)クラフト氏が首相となる(2)リュトガース現首相は退任する――の2つを前提条件としており、実現のハードルは高い。

\

論理的な可能性としてはこのほか、CDU、FDP、緑の党の3党からなる「ジャマイカ政権(3党のシンボルカラー黒・黄・緑の組み合わせがジャマイカの国旗と同じことに由来する)」もあるが、緑の党が否定的な立場を表明しているため、現時点では選択肢とならない。

\

ドイツでは08年に行われたヘッセン州議選後に各党とも連立政権を樹立できず、1年後に再選挙を行う異例の事態が起きた。今回の選挙結果は08年のヘッセン州議選に似ており、同様の事態に陥る懸念がある。

\

\

減税凍結、原発稼働延長は困難に

\

\

選挙の翌日、国政与党3党の党首は緊急会談を行った。CDU党首のメルケル首相は会談後の記者会見で、FDPが強く求めてきた税負担軽減を少なくとも2012年末まで凍結し、当面は財政再建を最優先する方針を明らかにした。政権合意では2011年から大幅な減税を実施することが取り決められていた。

\

減税をめぐっては景気対策で累積赤字が膨らんでいる現在、その余地はないとの見方が国民の間で強く、CDU内にも反対の意見が強かった。メルケル首相はFDPとの関係が悪化することを恐れ、これまでは明確な態度表明を避けてきたが、今回の選挙結果を利用して減税の可能性を一気に封印した格好だ。

\

FDPのヴェスターヴェレ党首も減税方針は正しいとしながらも、連邦参議院で与党が過半数割れとなったことで実現は困難になったと発言。当面は減税を断念する考えを示唆した。

\

与党敗北の痛手は経済界にも広がる見通しで、電力業界の念願だった原発稼働期間の延長は実現が遠のいた。稼働延長には連邦議会(下院)のほか、連邦参議院の承認も必要となるためだ。また、緑の党がNRW州で政権入りを果たすと、同州内に石炭・褐炭発電所を新設することはできなくなる公算が高く、同州に本社をおく電力大手のエーオンとRWEにとっては追い打ちとなりそうだ。

\

NRW州議選はドイツで今年行われる唯一の州議会選挙で、メルケル政権が連邦参議院で過半数を奪回するチャンスは当面ない。このため当面は政策実現に大きな妥協と時間が必要となると予想され、ドイツの政治は停滞する恐れがある。

\