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2011/6/1

総合 - ドイツ経済ニュース

2022年末までに原発全廃で与党合意、電力大手は損賠請求の意向

この記事の要約

独与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と自由民主党(FDP)の3党は5月30日、国内の原発を2022年末までに全廃することで合意した。日本の放射能漏れ事故を受けて政府が設置した諮問委員会(倫理委員会)の最終答 […]

独与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と自由民主党(FDP)の3党は5月30日、国内の原発を2022年末までに全廃することで合意した。日本の放射能漏れ事故を受けて政府が設置した諮問委員会(倫理委員会)の最終答申をおおむね受け入れた格好で、メルケル政権が今年1月に施行した原発稼働期間の延長政策からは完全に決別する。一方、電力大手は政府の突然の方針転換で巨額の損失が発生するなどとして損害賠償を請求する意向だ。

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メルケル首相はエネルギー政策の大転換には包括的な議論が必要だとして学識経験者や教会関係者、労組関係者、財界人などからなる倫理委を3月に設置した。同委はこれを受け、エネルギーの安定供給、二酸化炭素(CO2)排出削減目標の維持などの観点から原発廃止の可能性を検討。30日の最終答申で10年後の2021年末までに全廃できるとの意見を提出した。

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与党はこれを受け、早ければ2021年末、遅くとも22年末までに国内原発の稼働をすべて停止する方針を打ち出した。22年というのは原発廃止を法制化した中道左派のシュレーダー政権(当時)が2000年に定めたラインとほぼ同じ。現与党のCDU/CSUとFDPは昨年秋の法改正でこれを2040年頃へと延長したが、福島原発事故を受け全面撤回を余儀なくされた格好だ。第2公共放送ZDFの世論調査では国民の50%が「可能な限り早急な原発の廃止」、同35%が「2021年までの廃止」を求めており、稼働延長は政治的に維持できない状況となっている。

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老朽原発1基を緊急待機用に

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ドイツでは3月中旬以降、老朽7原発(1980年以前に稼働開始)とクリュンメル原発(事故が相次いだため09年から運転停止中)の計8基が稼働を停止している。与党は今回の合意でこれら原発を再稼働せずに廃炉とする方針を取りまとめた。ただ、8原発に代わる新たな発電施設が稼働を開始しないと、ピーク時の消費電力をカバーできず大規模な停電が起こる恐れがあるため、2013年まではこのうちの1基を冷温停止状態で保持し、緊急時に利用する意向だ。

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ドイツの実質的な発電能力は約90ギガワットに上り、ピーク時の消費電力(約80ギガワット)を10ギガワット程度、上回っている。だが、8原発を廃止すると8.5ギガワット減少し、発電能力のゆとりがなくなるため、与党は老朽原発1基の待機利用で合意した。

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1981年以降に稼働を開始した原発も今後、漸次廃炉となる。このため、新たな発電施設の建設は緊急の課題となる。

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現在建設中の石炭・ガス発電所が完成すると、発電能力は2013年までに約10ギガワット増加する。政府は2020年までにさらに10ギガワット分の発電能力を新設し、安定供給を確保する意向だ。特に再生可能エネルギーを増やす方針で、国内発電に占める同エネルギーの割合は2020年までに現在の17%から35%へと倍増させる。

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再可エネ発電の拡大に向けては風力発電を重点強化、陸上風力発電のリパワリング(既存施設のタービンを最新の機器と交換し、発電能力を高めること)と洋上風力発電を手厚く助成する。

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政府の方針転換を受け、原発事業者のエーオンは31日、10億ユーロのケタ台の損出が見込まれるとして損害賠償を求める意向を発表した。まずは政府と協議し、まとまらなければ提訴する姿勢だ。原発稼働延長に伴って導入された核燃料税を政府が今後も徴収するとしていることについては、違法だと批判している。

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原発を廃止すると、電力料金は上昇すると予想される。経済界からただ一人、倫理委に加わった化学大手BASFのユルゲン・ハンプレヒト前社長は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に対し、「(電力価格が大幅に上昇した場合)ドイツの産業・雇用競争力を維持できるかは分からない」と懸念を表明した。特にエネルギー集約型企業は痛手が大きく、独アルミ最大手Trimetの役員は『ハンデルスブラット』紙のインタビューで「コスト増加分を顧客に転嫁できない」と指摘。政府に対し電力料金負担の軽減策を求めた。(グラフ1、2を参照)

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