欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2014/7/21

総合 – 欧州経済ニュース

ユンケル氏の欧州委員長就任が決定、EU外相など要職の人選は難航

この記事の要約

欧州議会は15日に開いた本会議で、欧州委員会の次期委員長にルクセンブルクのユンケル前首相(59)を選出した。これによってユンケル氏の欧州委員長就任が正式決定し、バローゾ現欧州委員長の後任として11月1日に就任する。任期は […]

欧州議会は15日に開いた本会議で、欧州委員会の次期委員長にルクセンブルクのユンケル前首相(59)を選出した。これによってユンケル氏の欧州委員長就任が正式決定し、バローゾ現欧州委員長の後任として11月1日に就任する。任期は5年。今後はEU外相など他の要職の人選に焦点が移るが、加盟国の思惑が錯綜しており、調整は難航しそうだ。

欧州議会の本会議では第1会派の中道右派・欧州人民党(EPP)と第2会派の欧州社会党グループ(中道左派)がユンケル氏を支持し、採決では賛成422、反対250で次期委員長就任が決まった。

ユンケル氏は15日に欧州議会で行った演説で、EU経済の再生、雇用改善を重要課題に掲げ、向こう3年間に官民で総額3,000億ユーロをエネルギー、交通、通信など産業インフラの整備に投じる意向を表明した。また、欧州委員に女性を積極登用したいとする考えを示した。

欧州委員会はEUの内閣に相当する行政執行機関。委員長以下、加盟国が1人ずつ指名する27名の欧州委員で構成される。委員長はこれまで欧州理事会(EU首脳会議)が決定し、欧州議会が承認する方式で選ばれてきたが、今回から欧州議会の各会派が委員長候補を擁立して選挙に臨み、その結果を理事会が考慮して指名し、欧州議会が追認するシステムに変更された。

ユンケル氏は先の欧州議会選で第1会派となったEPPの候補者。しかし、EU加盟国の国家主権を弱めて欧州統合の深化を推進する「欧州連邦制」の支持者であることから、反EU勢力が躍進した先の議会選挙の結果にそぐわないとして、同氏の任命に英国、ハンガリーが反発し、調整が難航した。6月末の首脳会議では両国の反対を押し切って同氏が指名されたが、初めて全会一致では決まらない結果となり、大きなしこりを残した。

とくに、EU統合の深化に批判的で、EU離脱を求める動きが広がっている英国では、キャメロン首相が来年の総選挙で与党・保守党が再選されれば2017年にEU脱退の是非を問う国民投票を実施すると明言しており、ユンケル氏の欧州委員長選出が強行されたことで首相が世論受けする離脱に傾く可能性がある。15日には内閣改造を実施し、ヘイグ外相の後任にハモンド国防相を任命したが、同国防相はEU統合に批判的で、英国の国家主権が強化されなければEU離脱も辞さないとの構えを示している人物。この人事には離脱を一層ちらつかせることでEUをけん制し、統合推進に歯止めをかけたいという思惑が働いたとの見方が出ている。

今後の焦点となるのは、EUのトップ3ポストとされるEU大統領(欧州理事会常任議長)、EU外交安全保障上級代表(EU外相)、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)の専任議長と、欧州委員長以外の欧州委員の人選。EUの3ポストは加盟国が協議で決め、欧州議会の承認を経て正式決定される。閣僚に当たる27名の欧州委員については、9月までに各国が指名する候補者のリストに基づいてユンケル委員長が“組閣”し、10月に行われる欧州議会の公聴会での審査を経て決まるが、どの委員がどの分野を担当するかは事実上、加盟国の調整に委ねられる。

EU加盟国は16日に臨時首脳会議を開き、EU大統領など3ポストの人選について協議したが、各国が激しい駆け引きを展開し、意見が分かれたため決定を持ち越し、8月30日に再協議することになった。

とくに大きな争点となっているのは、英国のアシュトン氏の後任となるEU外相。イタリアのモゲリーニ外相が最有力候補となっているが、ポーランドなど中東欧諸国がウクライナ危機をめぐるロシアへの対応でイタリア政府が弱腰であることから、外相職を同国に委ねるわけにはいかないとして、同日の協議で強く反発した。中東欧諸国は同地域から外相を選ぶのが適切としており、候補としてポーランドのシコルスキ外相、ブルガリア人のゲオルギエワ現欧州委員(国際協力・人道援助・危機対応担当)などの名前が挙がっている。

ファンロンパイEU大統領の後任としては、デンマークのシュミット首相が広い支持を集めている。しかし、フランスのオランド首相が、デンマークが非ユーロ圏であることから難色を示し、合意に至らなかった。オランド大統領は欧州委員会の財政計画・予算担当委員にモスコビシ元仏経済・財務相が任命されることを条件に妥協する構えを示しているが、EUの財政規律に違反しているフランスが同ポストを確保することにドイツが反対しているとされる。

欧州委員の人選も前途多難だ。加盟国は欧州委員長の人事で苦杯をなめた英国に配慮し、重要ポストを同国に提供する用意があると目されており、英キャメロン首相は15日、貴族院のジョナサン・ヒル議長を欧州委員の候補に指名。同氏を域内市場、通商政策、競争政策など経済関連の重要ポストに送り込もうとしている。しかし、ヒル氏は政治家として無名に近い存在で、しかも反EU派であることから、実現は微妙な情勢。欧州議会のシュルツ議長は同日、ヒル氏を「過激な反EU派」と非難し、同氏の欧州委員就任を議会は承認しないと警告した。