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2010/7/28

総合 - ドイツ経済ニュース

ストレステスト、国有化されたHREは不合格に

この記事の要約

欧州連合(EU)域内の主要91銀行を対象とした財務査定(ストレステスト)の結果が23日公表され、ドイツの金融機関は14行中13行が「合格」の判定を受けた。資本不足で「不合格」とされたのは金融危機で国有化された不動産金融の […]

欧州連合(EU)域内の主要91銀行を対象とした財務査定(ストレステスト)の結果が23日公表され、ドイツの金融機関は14行中13行が「合格」の判定を受けた。資本不足で「不合格」とされたのは金融危機で国有化された不動産金融のヒポ・リアル・エステート(HRE)のみで、独金融監督庁(BaFin)は「ドイツの銀行の危機への耐性が証明された」との見方を示した。ただ、今回の査定に対しては基準が甘いとの批判もあり、審査が妥当かどうかを判断するには今後の市場動向を見守る必要がありそうだ。

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ストレステストはEU加盟国の銀行監督当局で構成する欧州銀行監督委員会(CEBS)が各国の金融監督当局と欧州中央銀行(ECB)の協力を受けて実施した。査定では◇2010、11年の経済指標が欧州委の予測通りに推移した場合を「シナリオ1」◇それよりも景気が悪くなりリセッションに陥った場合を「シナリオ2」◇シナリオ2に欧州各国の国債金利(リスクプレミアム)の上昇を加味した場合を「シナリオ3」――と分類したうえで、調査対象とした各行の中核自己資本比率(Tier1)を算出。同比率で6%未満を不合格(自己資本不足)と判定した。(下の表を参照)

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HREはシナリオ2とシナリオ3で自己資本が同査定の最低基準である6%を割り込んだ。シナリオ3では不足額が12億4,500万ユーロとなっている。

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同行は金融危機で不良資産を大量に抱え込んだほか、財政状況の悪いポルトガル、アイルランド、ギリシャ、スペイン(PIGS)の国債をドイツの金融機関ではダントツ1位の360億ユーロも保有している。PIGS諸国の国債は自己資本比率を大幅に押し下げるため、それを加味したシナリオ3ではHREの同比率が一段と低下した。

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ただ、今回の査定ではHREの不良資産を最大2,100億ユーロ、バッドバンクに移管し、移管後にBaFinから20億ユーロの追加資本注入を受ける計画が加味されていない。このため同計画が欧州委の承認を経て実行されれば、自己資本比率は大幅に改善する見通しだ。

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査定では北ドイツ州立銀行、ヴェストLB、ヘッセン・テューリンゲン州立銀行(Helaba)などの州立銀行で自己資本比率の低さが目立った。また、自己資本比率で国際決済銀行(BIS)が定める8%の最低基準を満たしたバーデン・ヴュルテンベルク州立銀行(LBBW)とバイエルン州立銀行も公的支援がなければ同比率が大幅に低下する。

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ドイツのショイブレ財務相はこうした事情を踏まえ、「州立銀行部門では再編の必要性が依然として高い」と発言。与党の金融政策担当議員は今後の選択肢として、◇すべての州立銀行を1つに統合する◇個々の州立銀行を地元の貯蓄銀行と統合する――の2つを提示した。野党からも同様の要求が出ている。ただ、これまでは州政府が抵抗してこうした改革を阻止してきた経緯があり、州立銀の再編を実現できるかは不明だ。

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査定には厳しい面も

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今回の査定で批判が出ているのはギリシャなどの財政悪化国が債務不履行(デフォルト)に陥るリスクがないとの前提に立っていることだ。

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CEBSがこうした立場を取る背景には、ユーロ導入国が財政危機に陥った場合に備え最大7,500億ユーロの緊急融資を通してデフォルトを防ぐ体制を構築したことがある。このため、損失リスクがあるとして査定の対象となる国債は売買目的のものに限定され、銀行が満期まで保有する国債は全額償還されるとして対象から除外された。

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こうした姿勢を損失リスクの過小評価ととらえる見方は強く、ストレステストにより市場の安定化を図るという狙いは実現しない可能性もある。

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ただ、ドイツの高級紙『フランクフルター・アルゲマイネ』紙はこうした甘さを指摘しながらも、ストレステストには市場の事前予想よりも厳しい側面もあると指摘。ギリシャ国債(5年物)の価格下落幅を09年末比で23%と設定したことは、ギリシャの財政危機がピークに達した今年5月の同比率が約12%だったことを踏まえるとかなり高いとの見方を示した。

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また、PIGS諸国などの国債危機が再発すれば投資リスクの回避先として取引価格が上昇するドイツ国債(同)の価値が4.7%下落すると想定されていることも、厳しすぎる査定基準の1つに挙げている。

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