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2013/11/20

総合 - ドイツ経済ニュース

次期政権の経済政策を5賢人委が批判

この記事の要約

政府の経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)は13日、2013年版『経済鑑定書』をメルケル首相に提出した。今回は次期政権の樹立に向けて2大政党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)が政権協定交渉 […]

政府の経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)は13日、2013年版『経済鑑定書』をメルケル首相に提出した。今回は次期政権の樹立に向けて2大政党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)が政権協定交渉を進めていることを踏まえ、両党が提言する政策案に言及。全体的に見て福祉国家色が強く歳出拡大と国民負担の増加につながる政策が多くドイツ経済の将来に禍根を残すと批判した。メルケル首相(CDU党首)は「指摘を真摯に受け止める」と回答した。

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今回の鑑定書はタイトルが「後ろ向きの経済政策に抗して」となっており、次期政権の政策への危機感がにじみ出ている。2000年代の構造改革「アジェンダ2010」で獲得した経済・社会政策上の遺産と経済競争力が失われる恐れがあると懸念しているためだ。

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鑑定書は特に最低賃金の導入、年金政策、財政支出の拡大を批判している。

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SPDは全国一律で8.5ユーロの最低賃金(時給)を導入することを要求。一方、CDU/CSUは地域と業種の違いを加味した最低賃金の導入を提唱している。5賢人委はどちらの政策も労働市場の柔軟性を損なうものだと指摘。特にSPDの政策案については、実施されると未熟練労働者や若年層の雇用が大量に失われると批判している。賃金水準が低い東部地区では影響が甚大という。

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両党は公的年金分野では総額275億~295億ユーロの歳出拡大につながる政策案を提唱している。具体的には(1)1991年以前に子供を産んだ女性の年金受給額を上乗せし、それ以後に出産した女性との格差を是正する(2)年金保険料の納付期間が長いにもかかわらず受給額が低い市民の受給額を上乗せする(3)支給額の減額なしに年金を受給できる年齢を63歳に引き下げる――というもので、貧困な高齢者の増加を防ぐ狙いがある。

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5賢人委はこれに対し、高齢者の貧困が今後、深刻化することを裏づけるデータはないと指摘。また、安定した年金制度を維持するためには、年金受給年齢を引き上げる必要があるとの見方を示した。

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年金受給開始年齢は構造改革を受けて2012年から段階的に引き上げられており、29年には現在の65歳から67歳へと上昇する。5賢人委は今回、45年までに同68歳、60年までに69歳に上げることを提言した。

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ドイツの財政は好転しており、今年は昨年に引き続き黒字を計上する見通し。5賢人委はこれについて、財政黒字は雇用の安定、低金利、ドイツ国債の低金利といった一時的な要因に基づくものだと指摘。現在の財政黒字は累積債務の圧縮に充てるべきだとして、財政規律の弛緩に警鐘を鳴らした。また、道路などのインフラ投資が必要なことを認めつつも、生徒数が大幅に減った学校の校舎を改築するなどの無駄な歳出は避けるべきだと苦言を呈した。

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原発廃止と再生可能エネルギーの急速な拡大で行き詰っているエネルギー政策については、決定的な打開策がないと指摘した。急速に膨らむ再可エネ電力向けの助成金に関しては新設設備への助成を当面、凍結することを提言している。

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企業投資底打ち

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ドイツの景気については楽観的で、これまで低迷していた企業投資が底を打ったとして、経済は内需主導で上向くとの見通しを示した。国内総生産(GDP)成長率は今年0.4%、来年1.6%を見込む(表参照)。

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欧州経済に関しても欧州中央銀行(ECB)の国債買い取りプログラムの効果でユーロ経済の先行き懸念が弱まったと指摘。また、財政悪化国の経済競争力で進歩がみられ、多くの国が景気後退局面を脱したと高く評価した。ユーロ圏のGDPは今年もマイナス成長(0.4%)となるものの、来年は1.1%のプラス成長に転じると予想している。

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