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2014/4/9

総合 - ドイツ経済ニュース

再可エネ助成ルールで法改正

この記事の要約

ドイツ政府は8日の閣議で、再生可能エネルギー法(EEG)の改正案を承認した。再可エネ電力の普及促進に伴うコストの膨張を抑制することが狙い。同法案には州政府の意向が反映されており、今後、連邦議会(下院)と州の代表で構成され […]

ドイツ政府は8日の閣議で、再生可能エネルギー法(EEG)の改正案を承認した。再可エネ電力の普及促進に伴うコストの膨張を抑制することが狙い。同法案には州政府の意向が反映されており、今後、連邦議会(下院)と州の代表で構成される連邦参議院(上院)で可決され、8月1日付で施行される見通しだ。一方、欧州連合(EU)の欧州委員会は7日、EEGでエネルギー使用量の多い企業に認められた再可エネ電力助成分担金(以下:分担金)の負担軽減措置を今後も許容することを、ドイツ政府との交渉で承認した。

ドイツは再可エネの普及を後押しするため、従来型電力に比べて発電コストが高い再可エネ電力を助成対象としており、再可エネ発電で生産された電力を市場価格よりも高額の固定価格で買い取ることが送電事業者に義務づけられている。買い取り価格と市場価格の価格差が助成金に当たり、最終的に電力料金に上乗せされて、消費者や企業などの需要家が負担している。

再可エネ発電事業者は助成金を20年間にわたって受け取れることから、投資リスクが低い。このため、国内の総発電量に占める再可エネ発電の割合は同助成制度が始まった2000年の6.6%から13年には23.4%へと急速に拡大。助成金総額は現在、年204億ユーロに達している。

これに伴い消費者や企業が負担する分担金の額は急増しており、昨年は前年比47%増の1キロワット時(kWh)当たり5.277セントに上昇。今年も18%増えて、同6.24ユーロに達した。

新設上限枠ルール、当初方針より緩和

現状を放置すると分担金は雪だるま式に膨らみ、消費者と企業が負担しきれなくなることから政府はEEG法の改正に乗り出した。

改正法案ではまず、国内の電力供給全体に占める再可エネの割合を25年までに40~45%、35年までに同55~60%に拡大するとの数値目標を設定。そのうえで、電力の安定供給を維持しながら妥当なコストで同目標を実現するための方策が盛り込まれている。

具体的には(1)助成対象をコストの低い技術に集約する(2)1kWh当りの助成額も引き下げていく(3)再可エネ発電の種類ごとに国全体の新設容量の規模を調整し、助成総額が無秩序に膨らまないようにする(4)再可エネ発電事業者に電力を自らの責任で販売することを義務づける(5)助成額を入札で決定する制度を導入する――などが盛り込まれた。これらの措置により1kWh当たりの助成額を2000~14年の平均17セントから同12セントに引き下げる考えだ。これらのルールが適用されるのは新規の施設のみで、既存施設にはこれまで保証してきた助成金を支払い続ける。

助成対象とする再可エネ発電の種類としては陸上風力発電、洋上風力発電、太陽光発電、バイオマス発電を挙げている。

政府は当初、陸上風力発電について国内新設能力を年2,500メガワット(MW)とし、これを超える分については助成額を大幅に引き下げ新設能力が目標値を大きく上回らないようにする方針を打ち出した。また、バイオマス発電にも同じルールを適用し新設能力を年100MWに設定した。さらに、洋上風力発電に関しては2020年までの新設能力を計6.5ギガワット(6,500MW)とし、従来計画の10ギガワットから縮小した。

これらの上限枠(ドイツ語でatmender Deckel=直訳すると「呼吸するキャップ」=)に対しては地元の利害を背負った各州政府から批判が出たため、法案には◇陸上風力発電の新設能力枠2,500MWからリパワリング(旧設備を発電能力の高い新設備と交換する措置)を除外する◇バイオマス発電についても既存施設の拡張分を100MWの上限枠に算入しない◇洋上風力発電関しては承認されても中止されるプロジェクトが出てくることを前提に計画承認の上限枠を7,700MWに設定する――が追加された。

太陽光発電にはすでに上限枠ルールが導入されており、今回の法案に新たな規制は盛り込まれなかった。

再可エネ電力を発電事業者の責任で売却するルールは8月1日付で導入する。対象となるのは発電容量500キロワット(kW)以上の新規設備で、16年1月には同基準が250kW以上に引き下げられる。17年1月からは100kW以上が同義務の対象となる。この措置により発電事業者は電力需要と価格が高いときに売電するようになるため、助成額の低下につながる。

(5)は再可エネ電力の入札で最低価格を提示した発電事業者が落札するというルールで、再可エネの助成制度に競争原理を導入することになる。17年から導入する。

自家発電はこれまで分担金を免除されてきたが、今後は負担義務が課されるようになる。対象となるのは新設発電施設で、既存施設は引き続き免除される。政府は当初、既存施設も負担対象に加えることを検討したが、経済界などから強い批判が出たため見送った。

負担軽減の対象から400社弱が除外に

厳しい国際競争にさらされるエネルギー集約型企業は分担金負担を軽減されているが、欧州委はこれが公正な競争を阻害している疑いがあるとして昨年12月、審査を開始した。

これに対し独政府は、エネルギー集約型企業の負担軽減はドイツの産業競争力と雇用を維持するのに必要な措置だと強く主張。軽減対象となる企業の基準がやや引き上げられたものの、同措置を引き続き行うことを欧州委に認めさせた。

メディア報道によると、今後も軽減措置を受けられるのはエネルギーの使用量が多く、かつ国際的に厳しい競争のさらされている65業界の企業で、分担金を85%免除される。現在の分担金額(1kWh当たり6.24セント)をもとに計算すると、これら企業の負担額は同0.94セントにとどまる。また、エネルギー使用量が特に大きい企業には、生産過程で生み出した付加価値の0.5%を負担上限額とするルールが適用される。

ガブリエル経済相は、軽減措置を受けられなくなる企業の数を400社弱としている。現在はおよそ2,100社に対し同措置が適用されている。

欧州委との合意に対し経済界からは安堵の声が出ている。助成措置が大幅に縮小されると、エネルギー集約型企業の国外流出が強まる恐れがあったためで、鉄鋼業界団体Stahlのハンスユルゲン・ケルクホフ会長は、競争力を保ちながら鉄鋼を今後もドイツで生産できるとの見解を表明した。

消費者団体などからは、一部企業の負担が今後も軽減されるため消費者の負担がやや増加することに批判が出ている。ガブリエル経済相はこれに対し、「消費者の負担を数ユーロ軽減し、その代償として雇用が危険にさらされること、それは政府の立場ではない」と述べ、理解を求めた。