欧州経済の中心地ドイツに特化した
最新の経済・産業ニュース・企業情報をお届け!

2014/11/19

経済産業情報

「アプフェルヴァイン」の伝統、欧州委が抹殺か

この記事の要約

ドイツのリンゴ酒「アプフェルヴァイン」は安く気軽に飲める酒である。最大の生産・消費地である独中西部のヘッセン州では「エッベルヴォイ(Ebbelwoi)」とか「エッベルヴァイ(Ebbelwei)」などと訛って発音される。西 […]

ドイツのリンゴ酒「アプフェルヴァイン」は安く気軽に飲める酒である。最大の生産・消費地である独中西部のヘッセン州では「エッベルヴォイ(Ebbelwoi)」とか「エッベルヴァイ(Ebbelwei)」などと訛って発音される。西隣のラインラント・ファルツ州でも「フィーツ(Viez)」という愛称で呼ばれる。フィーツは「~の代わりに」を意味するラテン語「vice」から生まれた言葉で、要はブドウから作る高級なワイン「の代わりに飲む大衆酒」という意味である。

ヘッセン州最大の都市であるフランクフルトで、エッベルボイを専門に出す大衆酒場で注文すると、陶器製の大きな容器と上広がりの空のグラスが運ばれてくる。この陶器をベンベル(Bembel)と呼び、中にリンゴ酒が入っている。グラスにも名称があり「ゲリップテ(Gerippte)」という。

地元民や事情を知る顧客は例えば「ツェーナー・ベンベル、ビッテ!」などと言って注文する。ツェーナーは「10杯分」という意味であり、「ゲリップテ10杯分のエッベルボイが入ったベンベルをください」と言っている訳である。

ここから分かるようにエッベルボイとベンベル、ゲリップテは三位一体であり、どれ一つとして欠けてはならないのである。

ところが最近になって、欧州連合(EU)の欧州委員会がベンベルにエッベルボイを入れて客に出すことを飲食店に禁じる法案を作成していることが発覚した。法案には、飲食店で客に出す飲料の容器は内側に目盛りが記されているうえ、容器の外側からそれが見えなければならないと書かれている。

陶器でできたベンベルはガラスと違って透けていないため、この法案が施行されると飲食店で使えなくなるのである。

これに驚いたヘッセン州のアルワジール経済相はラインラント・ファルツ州のレムケ経済相とともに、法案内容の変更に向けて欧州委に働きかけるようドイツ政府に訴えた。ラインラント・ファルツ州の飲食店でもフィーツはマグカップ状の白い陶器「フィーツポルツ(Viezporz)」に入れて客に出すからである。

アルワジール経済相によると、政府は欧州委に法案を修正させることを確約したため、ベンベルは将来も飲食店で使用できる見通しという。

実は、欧州委はアップルワインをめぐって07年にも大きな失態を犯している。このときはブドウから作った本物のワインでないにもかかわらず「ワイン」の名称を使用しているのはけしからんということで、「アプフェルヴァイン」の名称を禁止しようとしたのである。これに対しヘッセン州政府が強く抗議したため、同委は方針撤回に追い込まれた。