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2015/5/6

総合 - ドイツ経済ニュース

機関士労組がDB史上最長のスト、サプライチェーンに支障

この記事の要約

鉄道機関士労組GDLがドイツ鉄道(DB)を対象とする全国ストライキを4日、開始した。期間は10日までの約6日間で、DB史上最長。市民や通勤者の足に大きな支障が出ているほか、ドイツ経済へのしわ寄せも避けられない状況だ。GD […]

鉄道機関士労組GDLがドイツ鉄道(DB)を対象とする全国ストライキを4日、開始した。期間は10日までの約6日間で、DB史上最長。市民や通勤者の足に大きな支障が出ているほか、ドイツ経済へのしわ寄せも避けられない状況だ。GDLに対しては経営陣が提案した調停手続きの受け入れを求める声が政財界のほか、他の労組からも出ているが、憲法(基本法)で保障された労組の権利が制限される恐れがあるとして受け入れをかたくなに拒んでいる。

ストは貨物輸送で4日15時、旅客輸送で5日2時に始まった。終了はともに10日9時を予定しており、実施時間はそれぞれ計138時間(5日と18時間)、127時間(5日と7時間)に上る。

ストを受けてDBは臨時ダイヤを運行しているものの、運行規模は近距離鉄道で通常の3分の2、長距離鉄道で3分の1にとどまる。ストの重点はベルリン、ハレ、フランクフルト、マンハイム。GDLの組織率が高い東部のハレ、ライプチヒ、ドレスデンでは近距離路線の15%しか運行できない状況となっている。

ストにもかかわらずDBがダイヤを運行できるのはGDLとは異なる労組(EVG)に加入する機関士5,000人と、スト参加が法律で禁止されている公務員身分の機関士4,000人を投入できるためだ。DBの機関士は合わせて約2万人。

鉄道ストを受けて通勤の足を自動車に切り替える人も多い。このため高速道路などでは朝夕に渋滞が発生し、遅刻する就労者が少なくない。

貨物列車の運行は通常の約半分にとどまっている。このため顧客企業は他の貨物鉄道会社や輸送手段への切り替えに努めているものの、限界がある。

在庫を極力減らす「ジャストインタイム生産システム」が普及していることは追い打ちをかける。特に化学、鉄鋼、自動車産業は大きな影響を受ける見通しで、独自動車工業会(VDA)のヴィスマン会長は「1週間のストにより新しい局面に到達した。さまざまな障害や生産停止のリスクが大幅に高まった」との見方を示した。独化学工業会(VCI)も「ストが長期化すると原料供給に支障が出る」としている。

財界系シンクタンク、ドイツ経済研究所(IW)によると、ストの影響は4日目から急速に膨らむ。部品や原料などの在庫が底を突き、生産調整に追い込まれる工場が増えるためだ。DBはドイツの貨物輸送の17%を担っていることから、その穴を全面的に埋めることはできないという。

DBは自動車メーカーなど大口顧客の貨物を優先することから、中小・中堅企業は特に大きなしわ寄せを受ける見通し。独商工会議所連合会(DIHK)は今回のストでドイツ経済が受ける被害を5億ユーロと見積もっている。

新法案でスト権制限

ドイツの産業立地への信頼感が揺らぐ懸念もあることから、メルケル首相は4日、GDLとDBの対立を第3者による調停手続きで解決することが好ましいとの見解を示した。

それにもかかわらずGDLが調停入りを拒否する背景には、小規模労組の権利縮小につながる法案が、今夏までに可決・施行されることがある。

ドイツの労組は基本法9条の「結社の自由」に基づき、雇用者との労使協定を外部の影響を排して締結する権利を持ち、待遇改善などに向けてストを行う権利も保障されている。

だが、この権利を楯にGDLなどの小規模労組が大規模なストを実施し経済・社会に悪影響をもたらすケースが増えてきたことから、政府は1つの経営体(企業)ないし経営体内の各職業グループには1つの労使協定のみが適用されるとする「単一労使協定(Tarifeinheit)」の法制化に着手した。法案は近く、成立する見通しだ。

単一労使協定法案が施行されると、多数派労組が経営陣との間で締結した協定と、少数派労組が締結した協定に異なる点がある場合、前者の協定が適用されるようになる。つまり、最終的には多数派労組の協定しか適用されないようになり、労使協定締結に向けて少数派労組が行うストは「相当性の原則(目的を達成するためにはそれに見合った妥当な手段を用いなければならないという原則。行き過ぎた行動はこの原則に反する)」に抵触。裁判所がストを認めなくなる可能性がある。スト権が実質的に掘り崩されると、新たな組合員の獲得が難しくなり労組は存続の危機に直面する恐れがある。

DBでは鉄道・交通労働組合(EVG)とGDLが競合関係にある。組合員数を比較すると、EVGの20万4,000人に対しGDLは3万4,000人にとどまる。GDLは機関士に関しては多数派であるものの、それ以外の職種では少数派であり、同法案が施行されると、機関士以外の職種でEVGが締結した労使協定を受け入れなければならなくなる。

GDLはこうした事情を踏まえ、同労組の組合員にのみ適用される労使協定を同法案の施行前にDBと締結することを目指している。

これに対し同社の経営陣は、同じ仕事をしていながら所属する組合が異なるというだけで待遇が異なる事態は受け入れられないとの立場を堅持している。GDLとの間で新たな協定を締結しなくても、単一労使協定法案が施行されれば、EVGとの協定が適用される(機関士を除く)ことになるため、時間稼ぎを行う可能性もある。