欧州経済の中心地ドイツに特化した
最新の経済・産業ニュース・企業情報をお届け!

2010/1/20

経済産業情報

2つの「正義」が小都市で激突

この記事の要約

アーヘン近郊の小都市ハインスベルクが連邦司法裁判所(BGH)の決定に揺れている。あるいは、1人の男の取り扱いをめぐり穏やかならぬ空気が醸し出されていると言った方が正確かもしれない。\ この男はカール・D.というフォークリ […]

アーヘン近郊の小都市ハインスベルクが連邦司法裁判所(BGH)の決定に揺れている。あるいは、1人の男の取り扱いをめぐり穏やかならぬ空気が醸し出されていると言った方が正確かもしれない。

\

この男はカール・D.というフォークリフトの元操縦主(58歳)。これまでに少女3人を強かんし、合わせて20年の懲役刑に服していた元服役者である。昨年3月に出所して以来、男兄弟の家族が住むハインスベルクの家に同居している。

\

強かんの常習犯が自分の街に住むようになったとなれば、女の子を持つ親や女性が不安になるのも無理はないだろう。「再犯の可能性がある」という専門家の鑑定があるにもかかわらず出所したとなれば、不安というより恐怖と言うべきかもしれない。

\

カールが住みつくようになってから市当局は同居先の兄弟の家を24時間体制で警察に監視させている。家族の誰かが外出しようとすると、検査や尾行が行われるというから厳戒態勢と言っても過言ではないだろう。

\

市民もまた自ら動いた。カールが住む住居の前で毎晩、デモ行動を行っているのである。

\

彼の出所に対しては検察が異議を挟み、刑期の終了後も保安拘禁するよう裁判所に訴えた。だが、ミュンヘン地裁はこれを却下。最高裁である連邦司法裁も今月11日、同様の決定を下した。同裁の裁判官は検察の要求に理解を示しながらも、法的根拠がないとして退けたのである。

\

ハインスベルク市はこの先、いったいどうなるのだろうか。世間がそんな風に思っていた矢先の今月15日、カールが身を寄せる兄弟の家族は警察による監視とデモの禁止を求め提訴する意向を表明した。「監視には法的根拠がない」と堂々と主張している。

\

こうした行為は日本ではほとんど考えられないだろう。仮にそんなことをしようものなら、全国各地から匿名で脅迫の手紙やメールが大量に届き、週刊誌のバッシングも受けるだろう。

\

自らの権利をはっきりと主張するのはいかにもドイツ人らしい。自説を撤回しなければ破門すると迫られたマルティン・ルターが「聖書に書かれていないことは認められない」として拒否したことを彷彿させる。マスコミも事実関係を淡々と報道している。

\

市民の主張や市当局の措置と同様、兄弟の家族の主張にも確かに根拠がある。はたして2つの「正義」がぶつかり合う結果、より高次の「正義」が実現するのだろうか。

\