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2014/12/17

経済産業情報

排外主義の新たな潮流か、反移民・イスラムの市民運動が急成長

この記事の要約

「イスラム国」の戦闘に参加する国内過激派の増加や、移民の急増に反対する市民運動がドイツでにわかに広がっている。アンケート調査では市民の半数が支持しており、政府や主要政党は極右やネオナチの勢力拡大につながることを警戒してい […]

「イスラム国」の戦闘に参加する国内過激派の増加や、移民の急増に反対する市民運動がドイツでにわかに広がっている。アンケート調査では市民の半数が支持しており、政府や主要政党は極右やネオナチの勢力拡大につながることを警戒している。

この運動は「西欧のイスラム化に反対する愛国的欧州人(PEGIDA)」と名乗っており、定例デモの形で10月に独東部のドレスデンで始まった。参加者は当初、500人にとどまっていたが、その後、急速に増加。12月8日には1万人に達した。他の都市にも飛び火して、同様のデモが行われている。

主な要求として、◇宗教的な過激派や犯罪を行う移民の排除◇ドイツ社会に溶け込めない外国人が増えて国内にパラレル社会が形成されることを容認しない――を掲げている。

ただ、◇戦争難民や迫害を受けた外国人の受け入れは支持する◇難民が不当な扱いを受けることは認められない◇イスラム社会の男尊女卑も認められない◇キリスト教とユダヤ教を基調とする西欧文化の維持――といったことも主張しており、従来の極右と一緒くたにすることはできないようだ。極右は伝統的に、反ユダヤ主義の立場を取っている。

高級週刊紙『ツァイト』の委託で調査会社ユーガブが12~15日に実施した世論調査によると、PEGIDAを「全面的に支持する」との回答は30%、「どちらかというと支持する」は19%に達した。市民のほぼ半数が支持している格好で、「(PEGIDAの主張を)部分的に支持する」(26%)も合わせると75%に達する。「まったく支持しない」は13%、「どちらかというと支持しない」は10%で、批判的な市民は少数派だ。

主要政党・政治家はPEGIDAを警戒しており、ハイコ・マース内相は「ドイツの恥だ」と批判。メルケル首相も「ドイツにイスラム嫌悪や排外主義の場所はない」としているものの、アンケート調査からは市民の意識が政治エリートと大きくかけ離れていることがうかがわれる。

背景には◇高い社会保障の受給目当てでドイツに移住するルーマニア人、ブルガリア人が急増し、一部の都市で当局の負担が増加し、生活環境の悪化に対する地域住民の不安も高まっている◇シリア内戦を受けて難民が大きく増え、自治体の受け入れ能力が限界に達している(達する懸念がある)◇イスラム国がイラクやシリアで繰り広げる残虐な殺りく行為に参加した過激派が帰国し国内でテロを起こす懸念がある――といった事情がある。

こうした問題への政府の対応は十分とは言えず、政府のシュテファン・ザイベルト報道官は15日、PEGIDAに共感する市民の「懸念を真剣に受け止めなければならない」との立場を表明した。ただ、PEGIDAのなかには勢力拡大の機会をうかがうネオナチや極右も交じっており、同報道官は「(PEGIDAの)デモに参加する者は誰に利用されるのかをよくよく考えるべきだ」とも発言。市民に注意を呼びかけた。