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2014/12/17

ゲシェフトフューラーの豆知識

いじめの慰謝料請求、提訴の時期が遅ければ権利失効か

この記事の要約

いじめを受けた社員が会社や上司を相手取って慰謝料請求訴訟を起こす場合、被害を受けた時期と提訴の時期が時間的に大きく隔たっていると請求権が失われるのだろうか。この問題をめぐる係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が11日に […]

いじめを受けた社員が会社や上司を相手取って慰謝料請求訴訟を起こす場合、被害を受けた時期と提訴の時期が時間的に大きく隔たっていると請求権が失われるのだろうか。この問題をめぐる係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が11日に判決(訴訟番号: 8 AZR 838/13)を下したので、ここで取り上げてみる。

裁判は2006年から08年にかけて職場でいじめにあった元社員が当時の上司を相手取って起こしたもの。原告はいじめの結果、うつ病となり、07年に計52日、08年に216日、09年には8月まで病気休業した。これを受けて、元上司に対し最低1万ユーロの慰謝料を支払うよう要求し10年末に提訴した。

下級審は原告の訴えを棄却。判決理由で2審のニュルンベルク州労働裁判所は、原告の慰謝料請求権は時効(Verjaehrung)となっていないが、最後のいじめがあったと主張する08年2月8日から提訴までの期間が約3年と長いことを問題視。これは民法典(BGB)242条に定められた信義義務(Treu und Glauben)に反するものだとして、請求権は失効(Verwirkung)しているとの判断を示した。

一方最高裁のBAGは、いじめの慰謝料請求権に失効が適用されるのは、速やかに提訴しなければならない特別な事情がある場合に限られ、それ以外の場合は時効が提訴の期限になると指摘。原告のケースでは特別な事情がなく時効が提訴期限になるとして、2審判決を破棄し、裁判をニュルンベルク州労裁に差し戻した。差し戻し審ではいじめがあったかどうかを審理して判決を下すよう指示している。

■■ ポイント ■■

「失効」は民法典242条の「信義義務」から判例を通して導き出された概念。権利の行使を長い間、怠っていた請求権者が請求を行うことで被請求権者に生じる予想外の(信義義務に反する)不利益を回避する狙いがある。

例えば、歯医者(請求権者)が治療終了後、すみやかに請求書を作成せず、5年後になって患者(被請求権者)に治療代を請求するような場合、裁判で失効が適用される。

ただ、失効を幅広く適用すると「時効」が意味を持たなくなるため、裁判官は慎重に適用しなければならない。

失効がいじめに簡単に適用されると、加害者が有利な立場に置かれることになるため、BAGの裁判官は今回、いじめをめぐる訴訟では特別な事情がない限り失効が適用されないとの判断を示したもようだ。