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2014/3/26

総合 - ドイツ経済ニュース

独企業が露で新規事業凍結、現地資産はく奪の懸念も

この記事の要約

ウクライナ問題がドイツの実体経済に影響をもたらし始めている。欧州連合(EU)が検討している対露経済制裁とそれに対するロシアの報復措置が読めないため、企業はロシアでの新規事業を凍結。また、最悪の場合に備えてロシアからドイツ […]

ウクライナ問題がドイツの実体経済に影響をもたらし始めている。欧州連合(EU)が検討している対露経済制裁とそれに対するロシアの報復措置が読めないため、企業はロシアでの新規事業を凍結。また、最悪の場合に備えてロシアからドイツに資金を移管している。EUの経済制裁については加盟国の利害が大きく異なるため、調整が難航しているもようだ。

ロシアで事業を展開するドイツ企業は約6,000社に上る。主な企業の活動をみると、自動車大手のフォルクスワーゲン(VW)はVWブランドの「Tiguan」「Polo」とSkodaブランドの「Fabia」をカルーガ工場で生産している。これまでの投資額は13億ユーロ。今後も12億ユーロを投じ、2015年からエンジン生産も開始する予定だ。

農業機械大手クラースは南部のクラスノダールでトラクターとコンバインを製造している年産台数は1,000台で、今後1億ユーロを投資し15年までに2,000台に引き上げる計画。サンクトペテルブルクのプルコヴォ空港に35.5%出資するフラポート(フランクフルト国際空港運営会社)は新たなターミナルの建設を予定している。電機大手のシーメンスは現地企業シナラと共同で電気機関車製造の合弁会社を運営している。スポーツ用品大手のアディダスは同国で約1,000店舗を展開。現地売上高は10億ユーロに上る。

独商工会議所連合会(DIHK)のフォルカー・トライアー貿易部長への取材をもとに『フランクフルター・アルゲマイネ』紙が報じたところによると、ロシアでの新規投資を見合わせる動きが増えている。新しい生産設備を設置しても利用できない可能性を排除できないためだ。現地に進出した企業の間には従業員が入国を拒否されたり国外退去を命じられるのではとの懸念が広がっている。

現地資産をはく奪されるとの不安も根強く、監査法人大手KPMGの関係者は『ヴェルト』紙に対し、「多くの企業がロシア子会社で長年にわたってため込んだ利益をドイツに移している」と指摘した。銀行はロシア向けの新規融資をすでに停止しているほか、融資債権についても売却を急いでいるようだ。

「天然ガスは制裁の対象外に」、欧州委員が提唱

EUは対露制裁としてこれまでに、査証(ビザ)発給に関する協議の停止と政府高官など33人に対する制裁を実施した。経済制裁については欧州委員会が中心となって検討しているものの、具体策は明らかにしていない。各種メディア報道によると、検討内容がロシアに伝わったり、マスコミに報じられて裁量の余地が狭まることを避けたいという思惑があるようだ。

EUとロシアが相互に経済制裁を行う場合、エネルギー問題が最大の懸念材料となる。EU加盟国の多くはロシア産の石油・天然ガスに大きく依存し、ロシアもEU向けのガス輸出などがストップすると経済が破たんするためだ。

EUが輸入する石油と天然ガスのそれぞれ35%、30%はロシア産が占め、バルト3国、ブルガリア、スロバキア、フィンランドの6カ国はロシア産ガスに100%依存している。このため、同国産ガスの輸入禁止は現実的な措置でなく、欧州委のエッティンガー委員(エネルギー政策担当)は、天然ガスを制裁対象から外すことを提唱している。

EU加盟国の対露直接投資ではドイツ(約190億ユーロ)がダントツで大きく、2位のフランス(123億ユーロ)の1.5倍に上る。このため、ロシアがEU企業の資産はく奪に踏み切ると、ドイツは特に大きな痛手を受ける。

対露輸出でもドイツは規模が大きく、EU全体の30.21%を占める。2位のイタリアは9.04%、3位のポーランドは6.79%。ただ、ロシアへの輸出額が自国の輸出全体の5%を超える加盟国はなく、対露輸出が減少しても、影響は比較的小さいとみられる。

ロシアに対する債権保有額はフランスの銀行が最も大きく、計509億ドル(13年9月末)に上る。これは米国の同367億ドル、ドイツの237億ドルを上回るものの、仏銀行の資産の0.5%にとどまる。