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2014/9/10

総合 - ドイツ経済ニュース

保険会社の支払い能力強化へ、法案を閣議決定

この記事の要約

ドイツ政府は3日の閣議で、保険会社の監督に関する法案を承認した。運用資産のリスクの度合いに応じた資本の積み立てを保険会社に義務付けることで、運用が大幅に悪化しても保険金を支払えるようにする考え。経営破たんの危機に陥った保 […]

ドイツ政府は3日の閣議で、保険会社の監督に関する法案を承認した。運用資産のリスクの度合いに応じた資本の積み立てを保険会社に義務付けることで、運用が大幅に悪化しても保険金を支払えるようにする考え。経営破たんの危機に陥った保険会社を国が税金を使って救済するような事態が起きないようにする。法案は今後、連邦議会(下院)と連邦参議院(上院)の承認を経て2016年1月1日付で施行される見通しだ。

同法案は保険会社に対する新たな規制の枠組みとなる欧州連合(EU)指令「ソルベンシーII」を国内法に転換するもの。ソルベンシーIIは銀行に対する自己資本比率の最低基準を定めた新BIS規制に相当する保険分野の新ルールで、国際的に事業展開する保険会社に対して関係国の監督機関が連携して監視体制を強化し、グループ全体のリスクを正確に把握して金融市場の混乱を防止することを最大の目的としている。具体的には保険会社に一定以上のソルベンシーマージン(不測の事態が発生した場合でも契約通りに保険金を支払うための「余裕資金」のことで、広義の自己資本)の確保を義務付けることを柱とする内容で、リスク資産の評価技法やガバナンスに関する共通ルールなども盛り込まれている。

保険会社はこれまで、運用資産を購入時の価値に基づいて評価してきた。だが、資産価値が急落すると、保険金の支払い能力が低下するため、独政府法案では資産の時価計上を義務化。保険会社の体力を正確に把握できるようにする。また、各運用資産のリスクに見合った資本の積み立ても義務付け、保険金が不払いとなる事態を回避する。

保険会社が主な運用対象とする国債は原則として資本積立の義務対象とならない。ただ、償還が困難になった国債については連邦金融監督庁(BaFin)が積み立てを命じることができるようにする。

新たな手法による資産評価方法の適用には法案施行後、16年間の移行期間が認められている。BaFinの保険監督統括責任者が『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に述べたところによると、新規制の実施に伴いドイツの保険会社は合わせて100億ユーロのケタ台の資本積み増しが必要となる見通しだ。

保険会社の運用資金でインフラ整備

政府は今回の法案に、運用対象に関する規制を大幅に緩和することも盛り込んだ。低金利を受けて保険会社が運用先の確保に苦労していることに対応するとともに、老朽化した国内インフラの整備資金を確保する狙いがある。ドイツは財政再建に取り組んでいる関係で、インフラ整備資金の不足に頭を悩ませており、保険会社の資金運用規制を緩和することで、財源を確保する考えだ。

政府が重視するインフラは交通、電気通信、電力の3つ。いずれも設備が老朽化したり時代遅れになるとドイツの産業立地競争力の低下に直結する分野だ。

交通インフラでは老朽化が著しく進んでいる。投資を長年、怠ってきたためで、国内総生産(GDP)に占める同インフラ投資の割合は1970年の4.3%から昨年は1.2%まで低下した。修理は道路のほか、鉄道、水運分野でも必要で、鉄道信号扱い所の経過年数は平均93年に上る。北海とバルト海を結ぶキール運河ではブルンスビュッテルの経過年数100年超の閘門(こうもん)がネックとなり船舶の渋滞が発生。最悪の場合、船舶はユトランド半島北方海域への迂回を余儀なくされる。

通信インフラは人口が少ない地方で近代化が進んでいない。ブロードバンド網を構築しても採算が取れず、通信各社が投資を見合わせているためだ。地方には優良な中小企業が多く、ドイツ経済の屋台骨となっているが、通信速度の遅さはこれら企業の大きな足かせとなっており、現政権は2018年までに国内の通信速度を最低50メガビット/秒に引き上げる目標を掲げる。

こうしたインフラの投資先としての魅力を高め、保険会社などの資金を引き寄せることが政府の課題となっている。