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2014/11/26

ゲシェフトフューラーの豆知識

退職証明書の評価引き上げを被用者は要求できるか

この記事の要約

退職する被用者は退職証明書(Arbeitszeugnis)の発行を雇用主に要求できる。これは営業令(GewO)109条1項第1文で保障された権利である。同第2文にはさらに、勤務内容とその期間については最低限、明記されてい […]

退職する被用者は退職証明書(Arbeitszeugnis)の発行を雇用主に要求できる。これは営業令(GewO)109条1項第1文で保障された権利である。同第2文にはさらに、勤務内容とその期間については最低限、明記されていなければならないとある。また第3文には、被用者は業績と勤務態度についても証明書への記載を要求できると記されている。

では、同証明書に記された業績・勤務態度についての雇用主の評価に不満がある場合、被用者は評価の引き上げを要求できるのだろうか。この問題をめぐる係争で雇用問題の最高裁である連邦労働裁判所(BAG)が18日に判決(訴訟番号:9 AZR 584/13)を下したので、ここで取り上げてみる。

裁判は2010年7月1日から11年6月末まで歯科診療所に勤務した職員が同診療所を相手取って起こしたもの。退職証明書には同職員の仕事ぶりについて「全面的に満足(zur vollen Zufriedenheit)」と書かれていた。これは「やや良い」の評価(良)を意味する表現であるため、原告は一段階上の評価(優)である「常に全面的に満足(stets zur vollen Zufriedenheit)」に書き換えるよう要求。これが拒否されたため提訴した。

原告は1、2審で勝訴した。2審のベルリン・ブランデンブルク州労裁は独自調査をもとに、退職証明書の評価の約90%は現在、「優」ないし、「秀」を意味する「常に最高の満足(stets zur vollsten Zufriedenheit)」が占めており、「良」は実質的に「可」の評価と受け止められると指摘。被告・診療所は裁判審理で十分な反証を行わなかったとして、原告に対する評価の引き上げを被告に命じた。

一方、最終審のBAGは2審判決を破棄し、裁判をベルリン・ブランデンブルク州労裁に差し戻した。判決理由で裁判官は、「良」は中程度の評価であり、マイナス評価ではないと指摘。原告がそれ以上に高い評価を求めるのであれば、その事実を自ら説明ないし証明しなければならないと言い渡した。ベルリン・ブランデンブルク州労裁の独自調査結果については労働市場の現実を反映しているとは言えないとしている。

■■ ポイント ■■

退職証明書は事実に即した公正な内容でなければならない。その一方で、退職した元社員が再就職で不利になることは元雇用主として避けたいという気持ちも働く。この結果、人事関係者の間では独自の表現体系が形成されており、例えば「常に努力した(stets bemueht)」は「能力不足」、「同僚が抱える問題の解決に取り組んだ(fuer die Belange seiner Mitarbeiter eingesetzt)」は「事業所委員として活動した」を暗示している。日本の学校で教員が作成する生徒の調査書(内申書)と事情は同じである。